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artscapeレビュー

開館記念展「未来への狼火」

2017年05月15日号

会期:2017/04/26~2017/07/17

太田市美術館・図書館[群馬県]

ちょっと遠いし、規模も大きくなさそうだし、話題にもなってないけど、なんとなく美術館と図書館が一体化している点に惹かれて行ってみた。そもそも美術館(ミュージアム)の原型のひとつはミューズを祀る古代の神殿ムセイオンにあり、特に有名なアレクサンドリアのムセイオンは、美術館というより数十万巻の本を収めた図書館付きの研究センターみたいなものだったらしい。また初期のミュージアム、例えばロンドンの大英博物館にしろ、現在ドクメンタの主会場として知られるカッセルのフリデリチアヌム美術館にしろ、当初は美術館(博物館)と図書館の合体した施設だったというから、この2つは単に相性がいいというだけではない、それ以上の深いつながりがあるはずなのだ。
都内から東武伊勢崎線で約2時間は遠いが、駅のすぐ近くというのはありがたい。平田晃久設計の建物は、複雑な形をしているうえ屋上に植栽があるため、外からだとどんな構造なのかつかめない。中に入っていくと、どうやらいくつかの箱状の建物がガラス張りの外壁で囲まれた構造のようだ。大ざっぱにいうと、金沢21世紀美術館のかたちを崩して縦に伸ばした感じか。その箱が展示室になっていたり図書室になっていたり、また箱と箱との間の通路にも美術書や絵本が満載の本棚が並んでいたりする。そして外壁に沿ってスロープがあり、昇っていくと2階の中央に出る。そこに螺旋階段があって3階へと続く。つまり螺旋状に上昇していく仕掛けだ。これはひょっとして、つい先日見た「バベルの塔」の縮小版? いや、ボルヘスに倣えば「バベルの図書館」か? 規模こそ小さいものの、迷宮好きには魅惑的な建築だ。こんな美術館・図書館が子供のころ家の近くにできたらさぞかし喜んだだろうなあ、太田市民がうらやましい。あえて難をいえば、本にとっても迷宮好きにとっても明るすぎることか。
さて、その美術館スペースで開館記念として開かれているのが「未来への狼火」。出品は、太田市内で採取した土を使って壁に泥絵を描く淺井裕介、写真家で隣の桐生市出身の石内都、太田市で育ったアーティストの片山真理、太田市出身の詩人で朔太郎とも親交のあった清水房之丞、前橋市出身で太田市をパノラマ風に描く藤原泰佑ら9人。いずれも太田市か群馬県とゆかりがあるか、その土地に関係する作品をつくる作家ばかり。こういう開館記念展ではしばしば地元で知られたローカルな作家と、全国区または国際的に活躍するグローバルな作家が同居することになり、評価基準がチグハグになりがちだが、なぜか今回そんな齟齬はあまり感じなかった。もとより小規模な展覧会なので各作家の紹介が限られていることもあるが、それ以外にも、展示室が3つに分かれているため、その間の厖大な図書をながめ、時に立ち読みし、再び作品を見ることになり、いい具合に気が散るからではないか。もちろんこれは美術館としては問題だが、ここは「美術館・図書館」であり、美術作品に集中できないことを前提として展覧会を鑑賞するべきなのだ。そういう意味ではこれまでにない展覧会が生まれるかもしれない。

2017/04/24(月)(村田真)

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