アート・アーカイブ探求
中村正義《舞妓》──反逆するプリミティブな日本画「大野俊治」
影山幸一
2011年11月15日号
ドキュメントされた画家
「いったい中村正義とは何者だ」とその本の表紙を一瞥した途端、並々ならぬ迫力に興味を持った。この夏、382ページと分厚い『ドキュメント 時代と刺し違えた画家 中村正義の生涯』(笹木繁男著)が刊行された。画集ではない。ドキュメントなのだ。名前は知っていたが作品が浮かばない。本には中村正義に関する文献が網羅されているが、作品画像は60点ほどで画家としてどんな作品を残したのか、しっかりとつかめなかった。美術館のライブラリーへ行って図録を探してみることにした。
調べてみると中村正義は日本画家らしいが、作品の傾向が一様でなく、岡本太郎(1911-1996)のようにアートと社会の関わりにも関心を持って活動していたようだ。神奈川県川崎市の「よみうりランド」に近いところに「中村正義の美術館」があり、行ってみることにした。ポツポツと畑の残る坂道を登って行くと、自宅を改装した白い美術館が現われた。ちょうど「中村正義 色彩の世界展」が開催中で、風景、花、顔、舞妓、仏画の絵が展示されており、なかでも妙な舞妓の絵が笑いを誘って印象に残った。アンバランスで不気味なその姿のどこが舞妓なのだろう。《舞妓》という名の作品は数多くあった。日本画とは思えない最も派手でポップな黄色い《舞妓》を採り上げて、《舞妓》の絵の見方を探求してみたいと思った。画家・正義は十分に魅力的な人物であろうことは、作品の多彩さ、ドキュメントの存在から容易に想像できた。
正義の生まれ故郷である愛知県豊橋市の豊橋市美術博物館主任学芸員の大野俊治氏(以下、大野氏)に話を伺ってみようと思った。大野氏は、1997年に『没後20年─中村正義展』の企画・監修を務めており、長年中村正義研究をしている。地元から見る正義の作品とはどのようなものなのだろう。
何かの縁か11月1日から名古屋市美術館で正義最大規模の回顧展「日本画壇の風雲児 中村正義 新たなる全貌」展が始まり、中村正義の世界を一望してから、豊橋へ向かうことができた。