アート・アーカイブ探求
上村松園《春芳》──光明の香り「山崎妙子」
影山幸一
2013年04月15日号
機能としての絵画
絵画はときに見られる使命を超えて機能する装置になる。静から動へ、と動き出し能動態に変わるのだ。絵であっても受動態に納まらず、音を発し、風を吹かせ、香り、鑑賞者の感覚を開かせる。しかもそれは、見た瞬間であるとは限らない。2012年2月、東京・山種美術館で開催された「和のよそおい──松園・清方・深水──」展に展示されていた上村松園(しょうえん)の《春芳(しゅんぽう)》(山種美術館蔵)は、そんな作品であった。
控えめな梅の香りが甦ってきたのは、一年後の今年梅が開花した初春だった。時を経て心に甦るのは美しさだけではなかった。香りで季節を感じる優雅さを久しぶりに味わったような気がした。明治以降、ヨーロッパから導入された西洋画という概念に対して日本固有の画材・技法である日本画は、より日本人の感性に響く機能を内包しているのかもしれない。あの文明開化の激動期を女流画家として生き抜いた松園が描いた《春芳》とはどのような絵なのだろう。
上村松園といえば《序の舞》(東京藝術大学大学美術館蔵)が有名だ。しかし松園が描く日本画はどれも凛と秘めた力強さと美しさで完成度が高い。代表作に名が挙がらない作品であっても松園の魂は欠けることなく、しっかり作品に宿っていると思う。大作ではないが《春芳》には日本画の魅力、また松園の強靭であるからこその隠れた柔らかな本性が表われているような気がする。
代表作を含む18点の松園作品を所蔵している山種美術館の館長、山崎妙子氏(以下、山崎氏)に《春芳》の見方を伺う機会を得た。山崎氏は東京藝術大学大学院で研究論文『速水御舟の研究─伝統と新たなる創造の問題を中心として─』により学術博士号を取得しており、近代日本画の専門家。松園の縮図帖の調査・研究も行なった経験を持つ。桜の時期に東京・広尾の山種美術館を訪ねた。