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上村松園《春芳》──光明の香り「山崎妙子」

影山幸一

2013年04月15日号

芸術を以て人を済度する

 「美人画というものはやはり日本画独特のものであろうか。自然の生み出したものの中でもっとも美しいものは花でもあり、鳥でもあるが、人間もまた花と鳥と並んで自然の生み出したもっとも美しいものであるといえよう。それゆえに、自然の美を追求する日本画が花鳥画とともに美人画をその画題の中心においたこともうなずけるのである。しかし人間の美しさといってもやはりそれは女性、特に若い女性の美しさなのである」と、哲学者の梅原猛は述べている(梅原猛「理想の女性像を求めて」『上村松園』p.21より)。
 上村松園は美人画の巨匠と呼ばれているが、美人画の源流はどこにあるのだろうか。日本の美術史の流れのなかで描かれた女性像を振り返ってみると、高松塚古墳壁画に描かれた女子群像、法隆寺金堂壁画に描かれた飛天、正倉院宝物に伝存する《鳥毛立女図屏風》、薬師寺に伝えられた《吉祥天女像》が始まりとされている。また平安時代には、引目鉤鼻(ひきめかぎばな)の面貌を特徴とする日本固有の女性像が現われ、近世になり《湯女図》や《婦女遊楽図屏風(松浦屏風)》に見られる湯女や芸妓たちが描かれはじめ、そして一人立ちの寛文美人画が生まれる。西川祐信(すけのぶ)や宮川長春、鈴木春信、喜多川歌麿、鳥居清長、鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし)らの浮世絵師が美人を主題とした版画を量産するようになると、それらは美人絵と言われ、明治になってからは美人画と呼ばれるようになった。
 山崎氏は「美人画は一般に浮世絵がイメージされると思うが、美人画の前身が生まれるのは江戸時代。もともと遊女や花見をしている遊楽の風俗図から、菱川師宣の《見返り美人図》のように一人立ち美人が徐々に美人画として認識され、肉筆の浮世絵から発展していった。そこから版画の浮世絵美人画が生まれ、近代で美人画家といえば松園と鏑木清方である。ほかに池田輝方・蕉園夫妻や伊東深水など。美人画とひと口に言っても、現代は女性の内面を描こうとして女性像を描く人が多いのかもしれない。松園の特色は、内面的にも外見的にも女性としての理想的な美しさを描くこと。そしてほとんどモデルを使わないことである。西洋的な人体デッサンをしていないが、松園の場合はそれでも人物の特徴を的確にとらえていて美しい。近代以降の美人画には日本の伝統文化の真髄が込められている」と語った。
 上村松園の画道は「芸術を以て人を済度(さいど)する」(図録『没後50年記念 美の精華 上村松園展』)であった。しなやかで強靭なふくよかさを秘めた《春芳》。梅の香に包まれ、想いにふける若い女性に自分を重ねる。春の来ない冬はないと、春の到来に光明を見出す。




主な日本の画家年表
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山崎妙子(やまざき・たえこ)

公益財団法人山種美術財団理事長兼山種美術館館長。東京都生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、1988年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了、1991年同美術研究科後期博士課程修了。同年財団法人山種美術財団理事・山種美術館特別研究員、2006年山種美術館副館長、2007年同財団理事長兼山種美術館館長、2012年より現職。学術博士。主な著書:『速水御舟の芸術』(日本経済新聞社, 1996)など。各所での講演会のほか、2012年『家庭画報』(世界文化社)では「感じる!日本画 山種美術館・山崎妙子館長 特別講義」を連載。日本画の画材や技法を紹介するなど、日本画の新たなる魅力を伝えている。

※山崎氏の「崎」の本来の表記は「山」偏に「竒」ですが、パソコン、携帯電話等の画面の読みやすさを優先し「崎」を使用しています。

上村松園(うえむら・しょうえん)

日本画家。1875〜1949(明治8〜昭和24)年。京都生まれ。父太兵衛、母仲子の次女。生家は葉茶屋。本名は津禰(つね)。父は松園の誕生前に亡くなったが、葉茶屋の商いを続けた母の献身的な後ろ盾により、画業に専念。1887(明治20)年に入学した京都府画学校と「松年塾」で鈴木松年に師事、松園と号。やがて幸野楳嶺、後に竹内栖鳳の門に入り、独自の美人画を追及。装束、髪型、装飾品を研究し、女性の心理を昇華させた格調高く、清澄な女性美を表現。1890(明治23)年第三回内国勧業博覧会で《四季美人図》が一等褒状を受けた。日本美術協会、万国博覧会などで受賞多数。1907(明治40)年には第一回文展で《長夜》が三等受賞、以降官展で活躍。1948(昭和23)年女性初の文化勲章受章。代表作:《人生の花》《娘深雪》《花がたみ》《焔》《母子》《序の舞》《草紙洗小町》《砧》《鼓の音》《夕暮》《晩秋》など。

デジタル画像のメタデータ

タイトル:春芳。作者:影山幸一。主題:日本の絵画。内容記述:上村松園, 1940年, 絹本彩色・軸一幅, 71.5×86.8cm, 山種美術館蔵。公開者:(株)DNPアートコミュニケーションズ。寄与者:山種美術館。日付:─。資源タイプ:イメージ。フォーマット:Tiff, 57.1MB(350dpi, 8bit, RGB)。資源識別子:2 A0353 上村松園 春芳(ポジ撮影350).tif。情報源:山種美術館。言語:日本語。体系時間的・空間的範囲:─。権利関係:山種美術館






【画像製作レポート】

 作品画像については申請手続が必要。山種美術館より画像提供。
 iMacの21インチモニターをEye-One Display2(X-Rite)によって調整後、目視により作品画像を確認し、手を加えずに保存。作品画像は、表装などがすでに切り抜き調整され、すぐに利用できる画像であった。色調判断のポイントは、色再現の差が大きい中間色である薄緑色の羽織の色加減だった。しかし実物と比較できず、また図録や印刷物など作品の掲載が僅少のため、美術館から提供された原ファイルの色を信頼し、そのまま利用することにした。
 画像にはセキュリティーを考慮して電子透かし「Digimarc」を埋め込み、高解像度画像高速表示Flashデータ「ZOOFLA」によって、コピー防止と拡大表示ができるようにしている。
 山種美術館所蔵の一部の作品画像は、アーテファクトリーとオリンパスの共同事業であるストックフォトサイト『OADIS(オアディス)』(http://www.oadis.jp)からも画像利用申請手続きが可能。
[2021年4月、Flashのサポート終了にともない高解像度画像高速表示データ「ZOOFLA for HTML5」に変換しました]



参考文献

田中一松「京都四条派の展開 序として」『日本近代絵画全集 第17巻 竹内栖鳳 上村松園』p.4, 1963.1.10, 講談社
図録『開館五周年記念特別展 松園─上村松園その人と芸術』1971, 山種美術館
『近代の美術』第12号 上村松園, 1972.9.1, 至文堂
図録『生誕100年記念 上村松園展』1974, 京都新聞社
飯島 勇「三代の藝業─日本画の名門にみる─」『松園生誕100年記念 上村松園・松篁・淳之三代展図録』pp.93-98, 1975, 朝日新聞社東京本社企画部
河北倫明・馬場京子 編『上村松園解説本 青眉抄・青眉抄拾遺』1976.11.10, 講談社
今泉篤男『今泉篤男著作集3 日本画論』1979.6.25, 求龍堂
星井博子「理想美の追求」『三彩』通巻437号, pp.54-55, 1984.2.1, 三彩社
飯島 勇「栖鳳と松園にちなむ〔京の雅〕」『京の雅 栖鳳と松園を中心に』図録, pp.4-7, 1980, 山種美術館
塩川京子・関 千代 責任編集『上村松園/伊東深水 20世紀日本の美術2 アート・ギャラリー・ジャパン』1986.8.25, 集英社
『上村松園画集』1989.6.20, 京都新聞社
梅原 猛「理想の女性像を求めて」『上村松園』上村松篁 監修, pp.21-23, 1994.11.22, 光村推古書院
上村松園『青眉抄』1995.10.16, 求龍堂
村田真知 編『青帛の仙女 上村松園』1996.4.5, 同朋舎出版
草薙奈津子「上村松園の画業」『上村松園回顧展 図録』上村淳之・内山武夫・草薙奈津子 監修, pp.98-108, 1996, 日本テレビ放送網株式会社
図録『女性画家が描く日本の女性たち展─松園、小坡、蕉園、成園、緋佐子の美人画─』内山武夫 監修, 1998, 朝日新聞社文化企画局大阪企画部
村田真知 編『上村松園書誌』1999.8.27, 美術年鑑社
図録『没後50年記念 美の精華 上村松園展』内山武夫・上村淳之 監修, 1999, 朝日新聞社文化企画局大阪企画部
『上村松園画集 永遠の女性美』松伯美術館監修, 2000.8.1, 朝日新聞社
吉中充代「コラム 文化勲章受章、文化功労者の女性画家たち①〔京女、上村松園──たおやかに凛とした生涯〕」『日本の美術 女性画家の全貌。──疾走する美のアスリートたち』草薙奈津子 監修, pp.64-65, 2003.12.10, 美術年鑑社
毛利伊知郎「上村松園の画業─近代絵画としての意義─」『三重県立美術館リニューアル開館記念 上村松園展』図録, pp.8-15, 2004, (財)三重県立美術館協力会
吉江勝郎「蘇る〔伝統の創造力〕〔京の美意識─伝統の検証者たち〕展に寄せて」『京の美意識─伝統の検証者たち』図録, pp.8-11, 2006.10.6, 福井県立美術館・福井新聞社
加藤類子『アート・ビギナーズ・コレクション 上村松園 生涯と作品』2007.2.28, 東京美術
図録『近代日本画にみる麗しき女性たち─松園と美人画の世界─展』内山武夫・島田康寬 監修, 2008, 神戸新聞社
平野重光 監修『上村松園画集』2009.2.1, 青幻舎
図録『上村松園展』2010, 日本経済新聞社
高階秀爾 監修『「美人画」の系譜──心で感じる「日本絵画」の見方』2011.11.20, 小学館
図録『香り かぐわしき名宝展』2011, 日本経済新聞社
図録『松伯美術館コレクション 上村松園|素描、下絵と本画』2011, 川村記念美術館
『サライ』「和装の美女を愛でる 山種美術館〔和のよそおい─松園・清方・深水─〕展より」通巻545号, pp.87-92, 2012.1.10, 小学館
Webサイト:「第67回 山種美術館館長 山崎妙子さん 日本画にこだわる美の番人」『どらく』2012.1.17(http://doraku.asahi.com/hito/runner2/120117.html)朝日新聞社, 2013.4.10
Webサイト:「日本画について」『山種美術館』(http://www.yamatane-museum.jp/nihonga/)山種美術館, 2013.4.10

2013年4月

  • 上村松園《春芳》──光明の香り「山崎妙子」

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