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アート・アーカイブ探求

渡辺崋山《鷹見泉石像》和洋調和にみる気魄──「日比野秀男」

影山幸一

2013年06月15日号

【鷹見泉石像の見方】

(1)モチーフ

古河藩(現在の茨城県古河市)の家老で、蘭学にも通じていた53歳の鷹見泉石。

(2)タイトル

鷹見泉石像(たかみせんせきぞう)。

(3)制作年

一般には1837(天保8)年4月15日、崋山45歳の作。1839(天保10)年に言論弾圧事件「蛮社の獄」で逮捕された崋山は、蟄居の刑にあった1841(天保12)年に、この作品を仕上げ、社会情勢を考慮し年紀を逮捕前の年紀に変改したのではないかと日比野氏は推測する。

(4)画材

絹本着色。絵具は日本画の顔料。

(5) サイズ

縦115.1×横57.2cm。一幅。

(6)構図


《鷹見泉石像》の構図

半身の構図は、特定の個人を静止した姿で描く肖像画の定型だが、当時流行していた写楽の役者絵や歌麿の美人画など、大首絵をヒントにしていたかもしれない。本来は上部に賛を入れるが本図は余白。無背景の画面の下から3分の2に人物を配置し、左右中央の垂直線上に眉間と大名土井家の水車(みずぐるま)の家紋が入った脇差がつながる。顔の形と刀の鍔(つば)が楕円形、着物の重ねはV字形が連続して刀へ向かう動きをつくり、奥行きとリズム感を生む(画像参照)。

(7)色彩

黒、白、水色、緑、紫、茶、肌色、金。画面全体は淡彩。

(8)技法

顔と刀に見られる陰影法と彩色法を用いた西洋画技法に、衣の線描に見られる南画技法、それらを調和させた写実的な表現。自然な顔の肉付けなど、西洋画技法をほどよく採用したセンスが従来の南画とは別格の画態を樹立させた新しい肖像画。

(9)落款

「天保鷄年槐夏望日写 崋山渡邊登」の款記、「崋山」の白文小方形印。天保8年4月15日の作とある。

(10)鑑賞のポイント

写真のようにリアルな顔と刀と、伝統的な描き方による簡素な着物とを組み合わせた日本肖像画史上の金字塔である。泉石は折烏帽子(おりえぼし)に鷹見家の「抱き角(つの)に楓(かえで)」の家紋が入った素襖の礼服姿、大名の家紋の入った脇差を差し、眉毛の一本一本まで、気魄のある表情が鋭く描写されている。特に目と口元に意を尽くし、蘭学者でもあった泉石の性格まで表わす迫真性のある写実的描写に卓越。きりりと締まった線描と薄い色彩が爽やかで上品だが、ややぎこちない感じもする。1951年国宝に指定。1950(昭和25)年に施行された文化財保護法で定められた国宝いわゆる「新国宝」の絵画部門では最も古い指定(1951[昭和26]年6月9日)でありながら、制作年代(1837[天保8]年4月15日)は最も新しい文化財である。渡辺崋山は《鷹見泉石像》を描いた画家であり、絵に描かれている人物が崋山ではないことは案外留意する点でもある。

  • 渡辺崋山《鷹見泉石像》和洋調和にみる気魄──「日比野秀男」

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