アート・アーカイブ探求

小田野直武《不忍池図》 近代化の不完全な融合──「山本丈志」

影山幸一

2013年12月15日号


小田野直武《不忍池図》江戸時代・1770年代, 絹本着色, 額一面, 98.5×132.5cm,
重要文化財, 秋田県立近代美術館蔵 無許可転載・転用を禁止

ミステリアス

 何か不自然な絵だなあ。風景画なのか、花鳥画なのか、静物画なのか。セピア色した古写真にも見えてくる。静寂感の漂う西洋画に見えてじつは絹本着色の日本画ということにも胸騒ぎを感じる。画家が何を描こうとしているのか一瞥しただけではわからない作品だ。しかしもうすでに絵に引きつけられ、画家の手中に落ちているだろう。近景と遠景をはっきり分けた画面からは作品の不自然さと同時に、新しい視覚を提示しようとする画家の熱意が漂ってくる。小田野直武(なおたけ)の代表作《不忍池図》(秋田県立近代美術館蔵)である。小田野直武とはどういう画家なのだろう、江戸時代の洋風画と呼ばれる秋田蘭画であるこのミステリアスな《不忍池図》を探求してみたい。
 《不忍池図》を所蔵している秋田県立近代美術館の主任学芸主事、山本丈志氏(以下、山本氏)に作品の見方を伺いたいと思った。山本氏は秋田蘭画について論文「小田野直武の洋風画──落款にみるその成立と制作期間についての考察」(『鹿島美術研究(年報第26号別冊)』, 2008, 鹿島美術財団)や「秋田蘭画をめぐる、未着手の文化的背景」(『国際日本大学』No.8, 2010, 法政大学国際日本学研究センター)を発表している。幻想的な雪のかまくらで有名な秋田県横手にある秋田県立近代美術館へ向かった。


山本丈志氏

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