アート・アーカイブ探求
雲谷等顔《山水図屏風》広大無辺の型──「河合正朝」
影山幸一
2014年10月15日号
桃山の楔
個性を抑えた静かな水墨画のため、絵に興味のある人でも、雲谷等顔(うんこく・とうがん)の水墨画は見過ごしてしまうかもしれない。「セッシュウ」の名で聞き慣れている雪舟等楊(1420-1506?)の絵に似ているが、等顔の絵はみな同じに見える。「ウンコク」の響きは印象的でもあるが、絵師・雲谷等顔と聞いて絵を思い浮かべる人は数少ないだろう。
しかし等顔の作品に一度目が止まると、等顔作品同士の微妙な差異を発見することができ、時のたつのを忘れる。とりわけ重要文化財に指定されている六曲一双の《山水図屏風》(東京国立博物館蔵)は、全体に安定感があってバランスがよく、他の作品と比べるときの基準として等顔の世界へいざなってくれる。
等顔作品の図様にみる独創性は弱くとも、洋々として寂寥(せきりょう)感が漂う画面に人家や人や舟や木々が丁寧に描かれており、右隻には遠く渡り鳥、左隻には白い満月だろうか、太陽だろうか。アッと思うような発見があったり、ホッとした穏やかな気持ちにもなる。桃山時代の豪壮な城や社寺の内部を飾る障壁画が発達した華やかなときに、時代の空気に楔(くさび)を打つような畏怖の念を抱かせる奥深い風景画だと感じた。
この等顔の《山水図屏風》の見方について、日本中世・近世絵画史の専門家で千葉市美術館館長の河合正朝氏(以下、河合氏)に話を伺いたいと思った。河合氏は、特に桃山時代の絵師に詳しく「雲谷等顔について」(1974)や『日本美術絵画全集 第11巻 友松/等顔』(1978)などを執筆されている。JR千葉駅に下りると赤い羽根共同募金が始まっていた。10月1日、千葉市美術館へ向かった。