アート・アーカイブ探求

田中一村《不喰芋と蘇鐵》──トロピカルな精霊花鳥画「松尾知子」

影山幸一

2010年09月15日号

※《不喰芋と蘇鐵》の画像は2010年10月25日まで掲載しておりましたが、NHK出版との規約による掲載期間が終了しましたので削除しました。

熱帯の絵

 このまま日本は熱帯になるのか、と思えるほどの猛暑だった。気象庁は1898年からの観測以来、今夏が最も高い気温だったと発表した。熱中症での死亡者は160人を超え、人間には水が重要なのだと思い知った。
 素朴派のアンリ・ルソー(1844-1910)の傑作《蛇使いの女》(1907)のような、ジャングル化した熱帯の日本なら悪くない。そこには野生動物や熱帯植物などの自然がある。炎天下を歩きながらルソーに似た緑色の絵を思い出した。田中一村(いっそん)の《不喰芋と蘇鐵(クワズイモとソテツ)》である。
 かつてテレビで見た一村の作品は写実的でありながら個性的だった。ただ一村の人生論が先行し、イベント的で避けてきた感がある。この機会にしっかり作品を見てみようと思う。偶然にも運よく千葉市美術館で「開館15周年記念特別展 田中一村 新たなる全貌」展が開催されていた。さっそくその実物を見に行った。
 初めて見る一村の実物作品である。薄い絹の上に描かれた絵は、日本画とは思えない大胆な構図と発色の良さで、一見しただけではキャンバスにアクリル絵具で描かれた現代絵画と見間違えてしまう。印刷物で見るより緑色が深い色調で、絵の前に立つと作品は意外に大きく、画面の中から外界をのぞく感覚になり、また妖艶な植物は襲ってきそうな迫力があった。伊藤若冲の《動植綵絵》にも似て、余白の少ない画面は細部まで丁寧に仕上げられ、確かに一村を代表する大作である。
 《不喰芋と蘇鐵》が発している濃密な熱気を解明してみたいと思った。一村展を企画した千葉市美術館の学芸員、松尾知子氏(以下、松尾氏)に、一村の思いが凝縮されている《不喰芋と蘇鐵》の見方を伺った。


松尾知子氏

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