アート・アーカイブ探求

福田平八郎《漣》──乾性の詩情「島田康寬」

影山幸一

2011年04月15日号

【漣の見方】

(1)モチーフ

水。琵琶湖の湖面。

(2)構図

水面を斜め上から見た風景を画面一杯にトリミングした構図。画面に対象を大きく描く、琳派の装飾的な作品を参考にしたのかもしれない。

(3)サイズ

二曲一隻。縦157.0 ×横184.8cm。展覧会場での効果が考えられており、実際の湖面を想起させるための大きさ。

(4)色彩

銀、青。銀地に群青は、光を表現。

(5)形

線。

(6)画材

絹本着色。岩絵具、膠(にかわ)★2、金箔、プラチナ箔。

(7)技法

銀色の地は、金箔の上に重ねてプラチナ箔を押したもので銀箔ではない。金の上に銀色を重ねたことで、独特の柔らかく温かみある銀地の調子が生まれた。

(8)季節

はっきりした季節感はないが、春か秋。

(9)制作年

1932年。

(10)音

静かにそよぐ風の音。

(11)落款

「平八郎」の署名と「馬安」の角印が、画面左下にある。

(12)鑑賞のポイント

「水には金属的な光がある」という平八郎が、銀屏風の画面一杯に群青の線で波紋だけを描いた。絶えず変化する水の複雑な表情を、単純な色と形に還元し、実在感のある画面空間を構築した。画面の下から徐々に上部へ目線が導かれていく。風景の一部でありながら、背景に広がる大自然の息吹や生命までも感じる。また岡本東洋が撮影した水面の写真を参考にしたことが、神奈川県立近代美術館葉山の調査で判明した。昭和7年第13回帝展に出展し、風呂敷か浴衣の模様と批評された。平八郎の記念作であり、近代日本画史に取っても、「日本画」が新境地を切り開いた先駆的な試みとして、忘れることのできないモダニズム的傾向を代表する作品である。

★2──動物の骨や皮などを煮込んでつくる接着材。

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