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価値生成をめざすアーキテクチャの実験

須之内元洋2009年03月01日号

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編集判断という価値

 このようにして論考とメタデータ間、あるいはメタデータ同士の関係が十分に構築されれば、その関係性を上手にデザインに落とし込んで読み手に提示してあげればよい。例えば、メタデータの検索/絞り込み機能のロジックは、考えられうる検索/絞り込みの状況を編集者とデザイナー(サイトデザインを担当した建築家)が幾度もシミュレーションをしたうえで、編集者が予め構築したメタデータ間の関係性が、検索/絞り込み機能のアウトプットに巧みにフィットするようなアルゴリズムを採用している[図5]。メタデータとメタデータにまつわる関係性が豊かになれば、論考ページへの多様な道筋を読み手に提供できるだけでなく、アーカイヴが建築辞典としても機能するようになってくる。


5──編集者とデザイナー(建築家)による検索/絞り込み機能のシミュレーション


6──トップページのインデクス

 プロジェクトを通じて意識的に行なったことのひとつは、編集者による編集プロセスに依拠して価値が生じる仕組みになるよう徹底したことである。自動化できるところは自動化するが、判断をともなう箇所には必ず編集者のコミットが要求される。たとえば、メタデータを論考本文にタグ付けするプロセスを例にとれば、タグ付けの候補は自動で提示するが最終的なタグ付けの選択は編集者が行なう[図7]。あるいは、建築家のページに提示される推薦書籍は、けっしてAmazonのお薦め機能ではなく、編集者の選択判断を経たものだけが表示される。あるいはまた、FlickrやYoutubeからの引用画像や動画についても、編集者の選択判断を経たものだけが提示される。このアーカイヴのドメイン下で得られるコンテントはすべて、論考著者と編集者の責任で編まれたものということになる。まだまだ課題は山積であるが、編集者とアーカイヴが共犯関係を築きながら、この新たなメディアが成長すればと願っている。


7──メタデータを論考にタグ付けする機能(編集者機能)

 二つのケーススタディの仮説が本当にどの程度巧く機能するかということについては、おそらく1、2年の実運用を経て、今後メディアの成長過程で検証されることでもあり、いずれ機会があればご報告したい。

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須之内元洋

1977年生。メディア環境学、メディアデザイン。札幌市立大学デザイン学部助教。 international & interd...

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