2019年06月15日号
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展示の現場

音響による空間構成──池田亮司「+/−[the infinite between 0 and 1]」展

金子智太郎2009年04月15日号

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音響のサイトスペシフィシティ

 長谷川はたんなる音響の配置だけではなく、対比や誘導といった要素が、美術館で音を扱うときには不可欠だと指摘する。そして、このことが美術館と一般的なメディアアートセンターの違いであるとも語った。「メディアアートセンターは身体的な効果を囲い込むことを第一義とします。美術館はエステティックとコンセプトをどうやって見せていくか、空間的な拡がりのなかに作品をどれだけコンポジションとして配置させられる能力があるかの、ひとつのテストになります。メディアボックスであれば、所与の条件の下で最大の効果を見せなければならないために、ボックスはあらかじめ与えられています。美術館では空間の使いこなしという問題になりますから、そこに多くの選択肢と試練が待ち受けているわけです」。長谷川は美術館の空間が特殊で不均質であることに、コンサートホールや映画館のような専用の施設ではなく、美術館で音を扱うことの意義を認めている。
 確かに、池田の作品は対比や誘導を通じて、鑑賞者に東京都現代美術館という建築物の構造を意識させる。例えば、二つのフロアのプランは一見同型でも、上と下では天井の高さが6m、4mと異なっている。この違いが1階の巨大な映像や、距離感を狂わせる闇、空間を埋めつくすような音、また地下2階のポジションを意識させるような音場によって強調され、鑑賞者の体験として浮かび上がる。東京都現代美術館という空間が音響によって立体的に把握されるのだ。建築自体がミニマリズムを基調とした池田の作品の一部になっている。音をあらかじめニュートラルにされた場所のなかに配置するのではない」場所の独自性を際立たせる、サイトスペシフィックな音響である。
 会場の施工に関して池田が行なったことはきわめてシンプルだったという。仕切りを一切使わず、主に床にマットを敷いただけだ。無響室をつかった作品《matrix [for anechoic room]》(ICC、2000)で知られる池田だが、この個展では会場に音響的な操作はまったく加えていない。むしろ、長谷川が指摘するような対比や誘導という方法を通じて、それぞれの音と光、場所の特殊性を際立てている。圧倒的に精緻な作品と無加工の環境という対比もまた、展示を貫くシンメトリーのひとつだろう。


matrix [5ch version](2009)
© 2009 ryoji ikeda
Photo: Ryuichi Maruo


the irreducible [n_1-10](2009)
© 2009 ryoji ikeda
Photo: Ryuichi Maruo

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金子智太郎

1976年生まれ。東京藝術大学等で非常勤講師。専門は美学、聴覚文化論。日本美術サウンドアーカイヴ主催。最近の仕事に論文「環境芸術以後の日本美...

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