会期:2024/03/29〜2024/04/25
会場:コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]
公式サイト:https://fugensha.jp/events/240329ohnishi/

おもに6×6判の黒白フィルムで、生まれ育った江東区や江戸川区の近辺を撮り続けていた大西みつぐは、1980年代以降にはカメラを6×7判のマキナ670に変え、カラー写真で撮影した作品を発表するようになった。当時、アメリカを起点に大きな注目を集めていた「ニュー・カラー」の動向に刺激されたということもあったかもしれない。だがそれ以上に、大きく変貌しつつあった荒川や東京湾岸の光景を捉えるのに、黒白写真の表現力ではおさまりきれないという思いもあったのではないだろうか。被写体の色、形態、空気感などの視覚情報を総動員できる、カラー写真の新たな可能性に着目したということだ。

その成果は、1985年に第22回太陽賞を受賞した「河口の町・江東ゼロメートル地帯84」、1993年に第18回木村伊兵衛写真賞を受賞した「周縁の町から」、そしてその後の東京湾岸の写真をまとめた「NEWCOAST」(1987-1993)などに結実する。今回のコミュニケーションギャラリーふげん社での展示には、この3シリーズから35点の作品が出品されていた。

それらを見ると、大西の被写体との向き合い方が、じつに一貫していることが浮かび上がってくる。中心になるのは“ひと”の営みである。客観的に突き放すのではなく、かといって全面的に感情移入するわけでもない絶妙の距離感を保って、おかしみと悲哀とが同居する彼らの姿を写しとっている。同時に“ひと”を取り巻く建物や街路のような環境、どのような姿をとっているのかを丁寧に押さえている。結果的に、大西の1980〜90年代のカラー・スナップ写真の連作は、いわゆる“バブル”の時期の東京の周縁の地域の変容をヴィヴィッドに伝える、優れたドキュメントとなった。

展覧会に合わせて出版された同名の写真集に「“片眼の犬”マキナ670」と題するテキストを寄せた大山顕がこう書いている。「都市を成立させているものの正体と人々の欲望はなによりそのエッジに現れる」。たしかにその通りだと思う。大西が撮り続けてきた東京の周縁部(エッジ)にこそ、時代に突き動かされた都市そのものの「欲望」がありありと形をとっているのではないだろうか。

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鑑賞日:2024/04/12(金)