会期:2024/04/06~2024/06/09
会場:パナソニック汐留美術館[東京都]
公式サイト:https://thermae-ten.exhibit.jp

『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ著)は、私は原作の漫画を読んだことはないが、映画を観たことはある。映画は純粋にエンターテインメントとして楽しめる作品だったが、そこで描かれる古代ローマ人がテルマエ(公共浴場)にかける熱い情熱については、まぁ、原作が漫画だから大袈裟に描いているのだろうと片付けていたところがあった。が、案外そうでもなかったことが本展を観てよくわかった。

約1000年間続いた古代ローマのなかでも、「ローマの平和」と呼ばれた約200年間を舞台に、いわゆる「パンとサーカス」を与えられて享楽的に生きた市民が同作品では描かれる。そんな彼らの日々の癒しの場がテルマエだった。仕事終わりにテルマエで心身の疲れを取り、清潔にするという習慣は、日本人の風呂や銭湯に対する概念と何ら変わりがない。約260年間続いた江戸時代でも、庶民は歌舞伎や相撲、遊郭などの娯楽を与えられ、湯屋の文化が花開く。娯楽と浴場は、おそらく平和な世の中に欠かせない二大要素なのだ。そこに着眼点を置いた同作品の構想は実に面白いし、作中の主人公たちのように、本展でも古代ローマから日本へと時空を超えて横断ができる。


《入浴道具》1世紀 青銅 ナポリ国立考古学博物館蔵
Photo © Luciano and Marco Pedicini

《アポロとニンフへの奉納浮彫》2世紀 大理石 ナポリ国立考古学博物館蔵
Photo © Luciano and Marco Pedicini

古代ローマでは、テルマエは運動場やいくつもの部屋が付随する複合施設だったという。そもそもアスリートが運動をして汗を流した後に入る場所として設定されていたからだ。つまり運動も入浴も心身の健康を保つための一連の行為だった。その際に使用された、映画でもちらりと登場する青銅製のストリギリス(肌かき器/上記写真参照)が展示されており、これがそうなのか! と理解する。古代ローマ人は入浴後に身体に油を塗る習慣があったため、それをかき落とす役目があったのだ。本展ではそうした古代ローマ人の暮らしぶりがわかる道具や絵画、彫刻、テルマエの模型やCG映像などの想像をかき立てる展示が続く。そして最後の章では江戸時代の湯屋の様子が浮世絵をはじめ、模型やCG映像などで再現されており、やはり想像が膨らむのだった。古今東西、庶民が育んだ文化や風習にはとても興味をそそられる。なぜならそれらは現在の我々の暮らしと地続きであることを思い知らされるからだ。

豊原国周 《肌競花の勝婦湯》明治元年(1868)木版色摺 神戸市立博物館蔵
※展示期間:2024年5月9日(木)~6月9日(日)

鑑賞日:2024/04/27(土)