artscapeレビュー
大西みつぐ「ニューコースト」
2016年12月15日号
会期:2016/11/02~2016/12/22
PGI[東京都]
大西みつぐは1985年に「河口の町」で第22回太陽賞を受賞したあとに、荒川と江戸川が注ぐ東京湾岸(江戸川区臨海町)を、中判のネガカラーで集中的に撮影し始めた。ちょうどバブル経済がピークに達しつつあり、「ウォーターフロント」の再開発が急ピッチで進んでいた時期である。
今回、約30年という時を経て、PGIであらためて展示されたその「NEWCOAST」のシリーズ(32点、ほかに2015年に再撮影された4点も展示)を見ると、大西が明らかに同時代のアメリカの写真家たちの「ニュー・カラー」の仕事に強い共感を持ち、撮影を進めていたことがわかる。ウィリアム・エグルストン、スティーブン・ショア、ジョエル・スターンフェルドといった「ニュー・カラー」の写真家たちと同様に、大西もまた時代とともに大きく姿を変えていく「社会的風景」の細部の様相を、カラー写真の鮮やかな発色と細やかな描写力を活かして捉えようとしていた。
だが、むろん両者には違いもある。アメリカの乾いた風土やクリアーな空気感はそこにはなく、写真に写っているのは、「アメリカ西海岸あたりの土産物屋で売っていそうな安っぽいポスターイラストの絵柄」のぺらぺらの光景なのだ。人工干潟で束の間の休日を楽しむ家族や、サンオイルで体を焼く若者たちの姿には、確かに「切なげでちょっともの哀しい」気分が色濃く漂っている。30年後にそれらを見直すと、単にノスタルジアを誘うだけでなく、あの時代の深層の構造をあぶり出すさまざまな指標がしっかりと写り込んでいることが見えてくる。大西の写真を、東京の下町を定点観測的に撮影し続けてきた、質の高いドキュメンタリー作品として捉え直す視点が必要になってくるのではないだろうか。
なお、展覧会にあわせるように、大西の新作写真集『川の流れる町で』(ふげん社)が刊行された。荒川放水路の周辺を撮影した「放水路」、荒川の両岸の町の佇まいにカメラを向けた「眠る町」の2章から成る力作である。ドキュメンタリー写真家としての彼の視線は、明らかに東日本大震災以後の「社会的風景」の変貌に向かいつつあるようだ。
2016/11/07(飯沢耕太郎)