[提供:書肆みなもと]

発行所:書肆みなもと
発行日:2024/05/24
公式サイト:https://shosi-minamoto-shop.stores.jp/items/661f61f0581657002d291d3c

横谷宣はユニークな写真作品を発表し続けてきた写真家である。世界中を放浪し、ある特定の風景を撮るためにレンズやカメラや印画紙を自製して、一枚一枚吟味を重ねてトーンコントロールした軟焦点のプリントを制作してきた。展覧会で作品が売れたとしても、購入者に手渡すまでに数年間かかることもある。それでも、まさに見る者を黙想(メディテーション)に誘うような彼の写真の人気は高く、写真集の刊行が待たれていた。

4年あまりの時間をかけて制作したという写真集『黙想録』も、いかにも横谷らしい造本になっていた。黒い紙クロス装の表紙にドーム型の建物の内部を写した小さな写真が一枚貼り付けられ、背表紙に「黙想録」と横組で記されている以外は、一切の文字情報はない。なかもキャプションのない写真図版が淡々と並んでいるだけだ。最初は図版を印刷したページの黒い厚紙の固い触感、背がうまく開かない製本、やや黄色っぽく感じる写真の色味などに違和感を覚えたのだが、何度か見直しているうちに、ここにも横谷の意図が貫かれているのではないかと感じた。彼は印刷所(サンエムカラー)で印刷の方向性を決めるときに、プリントを見本とするのではなく、自分の頭のなかにある色やトーンを出したいと語っていたという。プリントと同様に、写真集という媒体でしか表現できない世界を求めたということだろう。出来上がった写真集の隅々に、その成果がよく発揮されていた。

なお、2024年5月8日〜9月14日に東京・お茶の水のgallery bauhausで、写真集の出版記念展として「横谷宣写真展 黙想録」が開催される。諸々の事情で、印画紙の制作をこれ以上続けることができなくなったので、「今回が最後のプリント」の展示になるのだという。

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執筆日:2024/05/06(月)