会期:2024/04/27~2024/07/07
会場:印刷博物館 P&Pギャラリー
公式サイト:https://www.toppan.com/ja/joho/gainfo/graphictrial/2024/

第18回目となる「GRAPHIC TRIAL」が開催中である。今年のテーマは「あそび」。この言葉だけを聞くと、なんとなく浮かれた気分を想像してしまうが、解説を見るとそうではない。「世の中は多様性や個性を尊重した、型にはまらない、優しい世界へと変化を続けています」とある。確かに「遊び」の意味は広い。ただ単に遊ぶことを指すときもあれば、実用的な目的を離れてそれ自体を楽しむこと、気持ちのゆとりなどを指すときもある。いま、過渡期にある時代の雰囲気を捉えようと、あらゆる企業が模索していることを痛感する。

展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー

参加クリエイターは、日比野克彦、岡崎智弘、津田淳子×大島依提亜、生島大輔の4組だ。いずれも興味深いトライアルだったが、ここでは前者2人を紹介する。まず日比野はVRペイントで描いた絵を紙に定着させる実験を行なった。仮想空間か現実世界か、あるいはデジタルかリアルか。この二軸についても、いま、過渡期にある。この実験はフランス人画家、オディロン・ルドンの壁画が設えられた南仏の修道院で、100年前にルドンが実際に絵筆をふるった場所に身を置いて、日比野がVRペイントを試みるという岐阜県美術館の企画に乗じたものだ。VRペインティングデータを印刷に展開するために、解像度やノイズ、A I解釈による微妙なズレなどの補正、絵具の厚みや質感を与えるといった細かな調整がトライアルの中心となったが、しかしそれだけではない感覚を彼は得たようだ。VRばかりに触れていると、物に触りたい反動が湧き上がり、紙を広げて絵具で絵を描くと、今度はまた逆の反動が起きることを繰り返したのだという。結局のところ、どちらの手法にも価値があり、どちらが良いとは言い切れないのが現状で、その間で揺れ動くことも過渡期ならではの心情だと感じる。

展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー

一方、岡崎は印刷の構成要素である網点に着目したトライアルを行なった。私も拡大鏡を覗いて印刷の網点を初めて見たときの衝撃を思い出す。そう、印刷は小さなドットの集合体なのだ。岡崎はその網点の線数や網角を変える実験などをしたうえで、一つひとつの網点を整然と並べた記録媒体としてのポスターを制作した。さらに拡大撮影した網点を素材に、彼の本領であるコマ撮りアニメーションにも挑んだ。アニメーションでは小さなドットがまるで意思をもったかのように不思議な動きを見せる。それが非常にかわいらしい。しかも途中で、彼の「遊び心」から半分に割れたドットまで登場する。ミクロの世界を本気で面白がることのできる者にしかできないクリエイションを見せてくれた。

展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー

鑑賞日:2024/04/26(金)


関連レビュー

第25回亀倉雄策賞受賞記念 岡崎智弘 個展「STUDY」|杉江あこ:artscapeレビュー(2023年07月15日号)
グラフィックトライアル2023 ─Feel─|杉江あこ:artscapeレビュー(2023年05月15日号)
グラフィックトライアル2022 ─CHANGE─|杉江あこ:artscapeレビュー(2022年05月15日号)
グラフィックトライアル2020 ─Baton─|杉江あこ:artscapeレビュー(2021年06月15日号)