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グラフィックトライアル2023 ─Feel─

2023年05月15日号

会期:2023/04/22~2023/07/09

印刷博物館 P&Pギャラリー[東京都]

本展は、第一線で活躍するクリエイターと凸版印刷とが協力し合い、新しい印刷表現を探るという恒例のプロジェクトである。今回のテーマは「Feel」。これにはコロナ禍がそろそろ終わりを迎え、先行き不透明な時代でありながらも、我々はより健やかに前向きでありたいといった思いが込められている。参加クリエイター4組がそれぞれに得意とする分野でアプローチをしたなかで、私が注目したのはアートディレクター・グラフィックデザイナーの木住野彰悟の作品「再構築」だ。円柱状の紙製飲料容器「カートカン」のリサイクル回収品をはじめ、段ボールの端材、断ち落とされたカラーバー(印刷時に色濃度の管理を行なうためのマーク)、製本加工時のクズなど、廃材を再利用して紙を漉くというトライアルを行なっていた。もちろん再生紙自体は珍しい試みではない。しかしこのトライアルではあらゆる産業廃棄物が工夫次第でアップサイクルも可能になるという、明るい未来を指し示しているように感じたのだ。


展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー


廃材を細かく砕き、水でドロドロに溶かし、手漉きと機械漉きの両工程を経て生まれ変わった紙は、実にユニークな表情をしていた。カラーバーを原料とした再生紙は、赤や青などの鮮やかな色が繊維の中にわずかに見え隠れし、その面影を残す。当然、これらの再生紙にまっさらな白さはない。しかし従来のように漂白するのではなく、表面に白インキを一度あるいは二、三度刷ることで、印刷紙としての機能を十分に果たすことを検証したのである。結局、再生紙ならではの風合いを「個性」として人々が積極的に認めるかどうかではないか。実際に商品化にあたってはコスト面や製造方法などを整備する必要があるだろうが、これはSDGsに適った問題解決であり、多様性にもつながる価値を持った商品になるのではないかと感じた。


展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー


また、凸版印刷でアートディレクター・デザイナーを務める島田真帆の作品「風光」は、特殊インキと特殊紙を組み合わせて、日本の四季を繊細かつ淡い色調で表現したものだ。彼女が同社で企業カレンダーの企画制作を手がけてきたという経歴に納得した。特段、風景写真や絵がなくても、色彩のニュアンスだけで四季を表現できるという点が興味深かった。それだけ日本人が四季に対するイメージをしっかりと持っている証なのだろう。こんなビジュアルのカレンダーがあったら、わが家にぜひほしい。


展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー



公式サイト:https://www.toppan.co.jp/biz/gainfo/graphictrial/2023/



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