会期:2024/12/10~2025/02/01
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]
公式サイト:https://www.dnpfcp.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000839

シンプルながらも、実験的な試みに刺激を受けた。本展はアートディレクター・グラフィックデザイナーの菊地敦己によるユニークなインスタレーションである。テーマは「空間の中のグラフィック」だ。まず「空間上の平面/平面上の空間:線と文字」は、単純な描線で窓辺の風景が描かれたいくつもの絵だった。明快な描線により区分されたそれぞれのスペースには赤や黄、緑、青、白、灰といった色指定がされており、まるで塗り絵の下絵のようにも見える。描かれているものがおおよそ何なのかはわかるが、その指定された色々を頭のなかで想像することで、風景はさらに詳細になっていくような気がする。そして展示会場の中でぐるりと裏側へ回ると、これらの絵の“正解”が示されている。「空間上の平面/平面上の空間:線と面」を見ると、先ほど頭のなかで想像した風景は、ある程度、当たっていたものの、想像しきれなかった部分にも気づく。さらに彼が仕掛けたのは、中間色と抜け(白)のスペースだ。もし指定通りに配色しただけであれば、絵は平面的にしかならないだろう。しかし部分的に中間色と抜けを加えることで、絵はわずかに立体的になり、生き生きとしてくる。そうした絵画の基本的な手法を改めて突いてくる。

「菊地敦己 グラフィックデザインのある空間」展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[写真:藤塚光政]

「菊地敦己 グラフィックデザインのある空間」展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[写真:藤塚光政]

さらに「重さと軽さ」は、2タイプの絵を対照的に展示したものだった。ひとつのタイプは裏打ちした紙に厚めのインクでプリントし、額装した絵である。もうひとつのタイプは折り畳んだ跡の筋目が残ったペラペラの紙にプリントした絵で、あえて風になびかせている。同じ絵が描かれているにもかかわらず、前者には重さを感じ、後者には軽さを感じる。これはデザインの基本的な手法だろう。菊地敦己はそうやってデザイナーの手の内を明かすようなインスタレーションにあえて挑み、普段、我々が視覚で捉えている情報の元を揺さぶってくる。とはいえ、デザインの仕事はこれよりもっと緻密な計算の下に成り立っている。インスタレーションを楽しみながらも、観覧者がそれに気づく良い機会になればと思う。

「菊地敦己 グラフィックデザインのある空間」展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[写真:藤塚光政]

鑑賞日:2025/01/07(火)