会期:2025/11/29~2026/01/18
会場:長野県立美術館[長野県]
公式サイト:https://nagano.art.museum/exhibition/keizo-kitajima-borrowed-place-borrowed-time

写真家・北島敬三の50年にわたる作家活動の実践を回顧する「北島敬三写真展 借りた場所、借りた時間」が長野県立美術館で開催された。

国内を代表する写真家が講師を務めたことで知られる「WORKSHOP写真学校」の森山大道教室を経てキャリアを開始した北島は、森山大道らと運営した自主ギャラリー「イメージショップCAMP」で、イメージの即時的な流通への意識をもとに『写真特急便 東京』(1979)や『写真特急便 沖縄』(1980)などの連続個展や冊子発行という形式で作品発表を行なう。これらは撮影から発表までのタイムラグを短縮し、現在進行形の伝達プロセスとして写真を機能させる試みであったといえる。以降、冷戦構造下の1980年代を中心に、東京、沖縄、ニューヨーク、ベルリン、ソ連といった都市を廻りながら、そこで遭遇した人々を強烈なストロボと粒子、身体性を伴うスナップショットによって記録してきた。1981年の『NEW YORK』や、崩壊直前のソ連を捉えたイメージを16年という年月のなかで風化させ2007年に発表した『USSR 1991』といった初期の代表作は、都市の風景を切断するように被写体と周囲の環境を描く初期の代表作といえる。


「NEW YORK」より[筆者撮影]



「USSR 1991」より[筆者撮影]

本展では、1991年のソ連崩壊を分水嶺として北島の方法論が転回を迎えるなかでの変遷を辿る構成を取っている。1992年から現在も制作が続く「PORTRAITS」では、白いシャツを着た人物が白い背景の前に立ち、無表情でカメラを見つめるという厳格なルールに基づいたタイポロジー的な構図を取っている。同被写体を数年おきに撮影する本作は、社会的な記号が徹底的に排除されることで逆説的に顔や画面そのものが刻む時代・時間を表しているといえる。また日本各地の無人の風景を記録した「UNTITLED RECORDS」は、東日本大震災の被災地を含みつつも、出来事のナラティブを排した即物的なまなざしによって貫かれている。バラックや瓦礫、コンクリートを等価に写す風景写真は、大震災の体験をいかに普遍化して伝承するかというストレートな問いを投げかける。この二つのシリーズは、個を類型化するタイポロジーと、場の固有性を記述し続ける定点観測という点では一見対照的に見えるが、撮影者の作為を排して画面の中に映る政治性を捉える態度は両者に通底している。それはドキュメントでも造形美でもなく、写真装置そのものの特性を用いて、人間と社会のパースペクティブを再構築する試みである。「借りた場所、借りた時間」というタイトルが示唆するように、北島の写真は所有することのできない世界の一瞬をイメージを介し見つめるための知的な抵抗の探究であるといえるだろう。


「UNTITLED RECORDS」より[筆者撮影]


鑑賞日:2026/01/17(土)


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