
上映:2026/05/01~
会場:ユーロスペースほか全国順次公開
公式サイト:https://trenova.jp/coranddoshi/
ル・コルビュジエが設計したインドの計画都市、チャンディーガルは有名であるが、現在までの約70年間、この都市や住民がどのような歩みを経てきたのかについては、あまりよく知られていないのではないか。そうした点で、本作『ユートピアの力』は貴重なドキュメンタリー映画といえる。そもそもコルビュジエが設計を担うことになったのは、1947年、約100年間続いた英国の植民地支配からインドが脱したことによる。ただしパキスタンとの分離独立だったため、北西部のパンジャーブ州が分割され、州都がパキスタンに帰属。州都を失ったインドが新たな州都建設に迫られたのだ。そこで初代首相ネルーが過去の伝統に縛られない、未来志向の民主主義を象徴するような都市を望み、コルビュジエに都市計画を依頼。コルビュジエはそれに応えるように、人間を中心に据えた、自然の秩序と近代技術とが完全に調和したユートピアを造り出そうとしたのである。

『ユートピアの力』
本作のなかでは、こうしたコルビュジエの崇高な意思を受け継ぎ、都市の維持に努めたり、大学で建築を教えたりしている建築家らが登場する。彼らのコルビュジエに対する尊敬の念は計り知れない。また住民にとってもこの都市はよく計画され、管理されているがゆえに住みやすさを感じているという声が多い。何しろ道路システムが7つの階層に分けられているので主要幹線でも渋滞せず、住宅街に入れば静かな環境を保つという。またいくつものセクターに分けられた都市のなかで、住民は所得に応じた負担の少ない住宅費で暮らすことができる。一方で、近年はこの都市の価値が非常に高まり、不動産価格が高騰しているという実態もある。したがって当初の計画に反し、低所得者は郊外へ追いやられる羽目にもなっているのだ。時代の変化が激しい昨今である。見方を変えれば、よくぞ70年もの間、理想的な都市の姿を保ってきたとさえ思う。

『ユートピアの力』

『ユートピアの力』
チャンディーガルの実情を知り、私が似たような構図として思い浮かべたのは日本国憲法である。戦後、GHQの指導下で新たに作成されたわが国の憲法は、言わずもがな戦争放棄を明確に謳った世界のなかでも稀有な憲法である。コルビュジエがユートピアとしての都市を描いたように、GHQ民政局に所属していた米国人職員たちは、ユートピア的な憲法の草案を練った。いずれも西洋的な近代主義思想を自国ではなくアジアの国で実現しようとした点が共通している。そして、どちらの国にとっても余所から与えられたユートピアをいかに守り維持していくかは永遠の課題となるのだ。

『ユートピアの力』
鑑賞日:2026/04/04(土)
『ユートピアの力』
2023年製作/スイス/85分/カラー/5.1ch/英語、ドイツ語
原題:THE POWER OF UTOPIA – Living with Le Corbusier in Chandigarh
撮影:カリン・ブッハー、トーマス・カラー
編集:トーマス・カラー、ミリアム・クラーケンベルガー、ファビアン・カイザー
音楽:アトゥール・シャルマ
出演:グルチャラン・シン・チャンニ、ディーピカー・カンディー、シッダールタ・ウィグ、ディワーン・マーンナー
企画・配給:トレノバ