新年度・新学期が始まって間もない週末に、青森に出かけ、十和田市現代美術館で開催中の「国松希根太 連鎖する息吹」展と青森県立美術館の「コスモスの咲くとき -地域に学び、平和を刻む教育版画の”いま”」展を見てきました。

国松希根太さんの作品は以前、北海道の飛生アートコミュニティー(白老)の元小学校で展示されているのを見たことがあります。今回は、昨年十和田の館長に就任された四方幸子さんの初キュレーションの企画展で、ほとんどが新作です。白老と青森南部、海を越えて向かい合うふたつの地域は、地質的にも文化的にも深いつながりがあり、江戸時代には津軽海峡は「しょっぱい川」と呼ばれていたそうです。自然と人の手が溶け合ったような大型の作品が並ぶ展示風景は圧巻でした。四方幸子さんはメディアアートのキュレーターとして活躍されてきました。しかし、今回の国松さんの作品はコンピューターもネットワークもデジタルデータも、そもそも電気も通じていません。なので、意外に思われる方も多いかもしれません。しかし、科学技術の発展した現代社会のなかでのあらたな自然・他生物と人間とのひらかれた関係、北海道や東北の文化への興味という最近の四方さんの視点からすると、腑に落ちます。国松さんの作品の作り方については、以前、国立アイヌ民族博物館の立石信一さんに「キュレーターズノート」で書いていただきました。十和田の展覧会でも紹介されていた「飛生アートコミュニティー」については立石さんに、国松さんの父である國松明日香さんについては、当時、札幌芸術の森美術館の学芸員だった岩﨑直人さんに「北海道の美術家レポート③國松明日香」として書いていただいたことがあります。

「WORMHOLE─時空をつなぐ森─」(2025)展示風景

「WORMHOLE─時空をつなぐ森─」(2025)展示風景

そして、四方さんには、最近、札幌文化芸術交流センター SCARTSで開催された、劇作家で演出家の市原佐都子さんの初インスタレーション作品展について、「プレコンセプションケアから粘菌へ──市原佐都子『肉の上を粘菌は通った』より」を書いていただきました(さる4月21日に公開したばかりです)。市原さんと粘菌というと、すぐに『妖精の問題』のなかの体内常在菌を使った食べ物「マングルト」を思い出します。しかし、今回は実際の粘菌を扱っているのです。

『妖精の問題』については過去にいくつものバージョンがあり、3人のレビュアーの方が書いてくださっています。

こq『地底妖精』|木村覚:artscapeレビュー(2017年07月01日号)
Q『妖精の問題』|木村覚:artscapeレビュー(2017年10月01日号)
市原佐都子/Q『妖精の問題』|高嶋慈:artscapeレビュー(2018年12月01日号)
Q オンライン版 『妖精の問題』|山﨑健太:artscapeレビュー(2020年06月01日号)
Q/市原佐都子 オンライン版『妖精の問題』|高嶋慈:artscapeレビュー(2020年06月15日号)
プレビュー:レパートリーの創造 市原佐都子/Q「妖精の問題 デラックス」|高嶋慈:artscapeレビュー(2022年01月15日号)

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さて、ここからもうひと足のばして、青森県立美術館へ。「キュレーターズノート」で町田市立国際版画美術館の町村悠香さんに書いていただいた教育版画運動が心に残っていて、コレクション展「コスモスの咲くとき -地域に学び、平和を刻む教育版画の”いま”」の展示が見たかったのです。「みんな、かつては版画家だった──教育版画運動と大田耕士旧蔵版画集から考える『私たち』の戦後美術史」「2つの民衆版画運動と戦争の傷跡、平和運動──『彫刻刀が刻む戦後日本展』出品作から」に出てきた大田耕士、坂本小九郎など優れた教育者が、単に視覚的な表現の技術を教えるのではなく、人間形成や生徒同士の共同作業を育む方法として、版画教育を行なっていたことがわかります。

花岡事件や地元の農業など、まずテーマについて調べる、そして構成をテキストと画面の両方で考える。シリーズものでは、生徒それぞれが得意なやり方を発揮できるようにする。子どもたちが一生懸命に取り組んださまが画面から伝わってきます。どうやって、こんな迫力ある構成を思いつくのかな。1973年に車力小学校6年生40人で卒業間際の1カ月で制作した《車力農業史》を、その版木と、当時とあらたに刷りなおしたふたつのバージョンの刷りを並べた長尺の展示には息をのむように見入ってしまいました。

つがる市・車力小学校 指導:佐藤浤生《車力農業史》(1973/2025) 展示風景

また、ガリ版刷りの学年新聞がずらりと展示されているのを、いまは中年になった元生徒が、「あ、◯◯先生だ、懐かしい」と友人と声をはずませて見ているのも印象的でした。

小学校の生徒たちが工作の時間に描いた作品が、シャガールや奈良美智の作品が目玉の県立美術館に収蔵され、「美術作品」としてだけではなく、地域社会や教育の歴史を、戦後、どんな社会をつくろうと先生や生徒が夢見ていたのかを、みなで共有できる場になっているのがとても熱く感じられました。

「キュレーターズノート」を書いていただいる清水チナツさんに、「未来を放棄しないために、予め祝う12年目の春」で取り上げていただいたA3BCによるグローバルにひろがった版画プロテスト運動の展示には、歴史が終わらずに現在へとつながっていることが見えました。この奥行きある展覧会を担当されたのは、「もしもし、キュレーター?」に登場していただいた奥脇嵩大さんでした。(f)

手前:A3BC《礫》の展開(2024) 奥:八戸市・湊中学校養護学級生徒 指導:坂本小九郎「虹の上を飛ぶ船 完結編・総集編」展示風景