会期:2026/03/16~2026/05/06
会場:東映アニメーションミュージアム 特設会場[東京都]
公式サイト:https://museum.toei-anim.co.jp/information/2026-002.php

いわゆるマンガやアニメは★1、美術と違い展示された状態で鑑賞されることを必ずしも想定していない。そのためミュージアムや会場で見せるために、さまざまなアプローチが行なわれてきた。ここでよく取られるのは、原稿や原画をはじめとした直筆の成果物を額などに入れ、絵画のようなアウラをまとわせて見せる方法だ。しかし同展はアニメーションの原画を特権化せず、あくまでも中間制作物として見せながら、アニメーター・太田晃博の創意工夫を浮き彫りにする啓蒙的構成が特徴的だった。

1989年生まれの太田は東映アニメーション研究所を経て2010年に東映アニメーションに入社する。その後『ONE PIECE』(1999-)をはじめ同社の制作する作品に原画や作画監督などで関わってきた。同展では『ONE PIECE』はもちろん、『ワールドトリガー 3rdシーズン』(2021-22)のオープニングアニメーションの原画などいくつかの仕事がピックアップされていたが、中心を成していたのは『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023、以下『ゲ謎』)に関連するパネルだった。

同作は、因習に囚われた村を舞台に、第二次世界大戦後の日本社会を問い直す本格的なミステリーだ。展示においてもっとも力を入れて紹介されていたのは、そうした物語のなかでも太田が担当し、観客に強烈な印象を残した中盤のアクションシーンのメイキングである。

ここではアニメーター、より正確に言えば原画および作画監督の仕事が、数多くの途中段階のイメージと太田自身による文章を交え解説されており、完成映像と見比べることでそのクリエイティブがわかりやすく提示されていた。そもそもこのシーンは、洋館のテラスを舞台に、近接戦闘の迫力が臨場感あふれるカメラワークとアニメ的な誇張によって表現され、劇中でも作画が突出した場面として評判が高い。アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズは東映アニメーションが1968年より一貫して制作してきたタイトルであり、太田の展示を開催するにあたって、この『ゲ謎』をフィーチャーすることは、コーポレート・アイデンティティを示すという意味でも最適な選択だったといえるだろう。

この一連のシークエンスは、数多くの工程と技術的な蓄積を経て完成したものであることが会場のパネルやディスプレイで説明されている。同作における太田の仕事は、背景ではない事物、現象を原画として一から動きを作り出し、作画監督として修正することだ。彼はスタッフとともに絵コンテ通り自ら演じながら参考映像を撮影し、作画に入ったことがここでは解説されている。

アニメーションは現実の物理法則などを裏切ることでさまざまな効果を表現することができるメディアだ。ゆえにその画面にはさまざまな「演出」が紛れ込んでいる。例えば一連の場面では地面に落ちる影は状況に応じて濃さが使い分けられており、場合によってはなかったりもする。また、主人公が窓ガラスを割って室内に転がり込むカットでは、硝子の破片が消去されていることや、敵役の刃物を光らせることで殺意を表現するなど、単純に「動かすこと」以外の工夫が作画において行なわれることがイメージとともに説明されていた。元の原画と比較されるかたちで展示されていた作監修正からは、肩から腕にかけての輪郭がひと回り大きく描かれ、服のシワも足されることによって、壁にもたれかかるキャラクターの重心がより伝わりやすくなっている。

後編へ)


★1──本稿で言うところの「マンガ」および「アニメ」とは、第二次世界大戦後の日本国内において、大衆文化として商業的に発展したジャンルのことを指す。


参考文献

・森川嘉一郎『マンガ・アニメ展のデザイン』(イースト・プレス、2024)

鑑賞日:2026/03/29(日)