
会期:2026/03/19~2026/03/23
会場:クリエイティブセンター大阪[大阪府]
公式サイト:https://kondaba.tumblr.com/next2
実験的な野外劇で知られる劇団「維新派」に所属していた俳優の石原菜々子と金子仁司によるユニット「kondaba」は、かつて卸売市場や木工所だった廃墟のような空間を舞台に、場所の特性を活かしたサイトスペシフィックな上演を行なってきた。本作の上演場所は、河口に位置する、元造船所だった広大な空間。東京都出身の石原の曽祖父が石綿(アスベスト)工場を経営していたことと、岐阜県出身の金子の実家が建設業を営むことに着目し、家族史の聞き取りと、林業やアスベスト産業、物流の時代的変遷のリサーチを元に、近代産業の構造的変化をさまざまな演劇的仕掛けで描き出した。それは、家族史や個人史という細い川の流れが交わって合流し、日本の近代産業史という大河となって海へ注ぎ込み、物流拠点である「港」へ向かって膨大な言葉と記憶が集積されていく、壮大な時空の旅でもある。
[撮影:中谷利明]
本作は、異なる話者の語りが混線する、一見断片的なシーンの連なりで構成される。「工業都市の誉れも高く」と小学校の校歌で歌われ、1970年代まで造船業で栄えた北加賀屋のまちと、現在の風景描写。鉄道や自動車道路が発達する以前は、金子の出身地の岐阜県下呂市を流れる飛騨川など、上流で伐採した木材の輸送に河川が利用されていたこと。昭和初期に、木材を川へ流して運ぶ「川狩り」の仕事に従事していた労働者の日記の朗読。「木先作り」「木尻追い」「終日 野辺 をいたした」など独特の用語とともに、徒歩で川沿いを下り、宿を転々とする日々の記録が淡々と記されている。川を埋め尽くす大量の木材を追って、飛騨の山奥から支流伝いに名古屋へ到着するまで約40日かかったという。一方、戦後、国道の整備とともに、物流は水運からトラック輸送へ変わり、林業の衰退とともに人口が減った町を盛り上げようと、地域に伝わる伝説を元に「小太郎祭り」という火祭りが作られたことが、(おそらく高齢の地元住民への)インタビューで語られる。
また、石原の曽祖父が、「近代製紙の夜明け」と呼ばれた明治中期に富士市で製紙工場を立ち上げ、製紙で培った技術を元に、昭和15年に東京でアスベスト工場を作ったことが、家族へのインタビューを通して語られる。アスベストはかつて「奇跡の鉱物」と呼ばれ、耐火性や断熱性を備えた建築材として重宝された。アスベスト工場での生産ラインの様子を覚えている母親へのインタビューでは、原料のアスベスト(繊維状の鉱物)を粉砕し、ドロドロに溶かしたものを紙のように漉き、ロール状にして裁断し、干して乾燥させたことが語られる。アスベストの混合率が高い製品は「雪印」と呼ばれ、「雪のように真っ白できれいだった」という。だが、戦後、アスベストの細かい繊維を肺に吸い込むと健康被害をもたらすことがわかり、発症までの期間が長いことから「時限爆弾」と言われた。一方、創業者の父親の跡を継ぎたくなかった石原の祖父は、アスベストで儲けた金をつぎ込んでゴルフ場を開業したが、ライバルに押されて閉業したという。
こうした語りの合間に、あるいは同時進行で、会場に置かれた木材、スケートボードのジャンプ台のようなスロープ状の構造体、さらには「観客席」を出演者たちが動かし、「運搬作業」「肉体労働」に従事しながら、空間の配置と「目に見える風景」を変えていく。厚紙製の芯材の束の上に橋のように板を渡したユニットが、ギザギザに連結され、その上をさまざまな物が手から手へと行き交う。曲がりくねる河川を利用した輸送、鉄道や道路の建設、物流の時代的変遷、点と点を線でつないで見えてくる近代という時間の流れといった多層性をまさに可視化する仕掛けだ。出演者たちはスケートボードに乗って軽やかに行き交い、映像を流すモニターもまた、スケートボードに載せられて運搬される。
[撮影:中谷利明]
[撮影:中谷利明]
また、本作のハイライトのひとつが、広大な空間を活かし、3ブロックに分かれた「観客席」を動かす演出だ。「出港します!」という掛け声とともに、出演者たちが観客席を押し、90度回転した位置へ動かしていく。「動くはずがない」と思っていた座席の構造体自体が動かされるという驚き。乗り物に乗ったように、空間の見え方がスローに並行移動していく。客席からは歓声が上がり、次第に離れていく「対岸」に残った出演者が手を振って見送ってくれる。遊び心に満ちた仕掛けだが、ここには本作の鍵が多層的に詰まっている。人力で移動される客席は、誰かの「労働」によって、日々の生活の土台が支えられていることを体感させる。ゆっくりと空間の見え方が変わっていく事態は、近代化や産業構造の変化による風景の変遷を示す。林業が廃れていく山奥の町。ゴルフ場の開発で切り開かれる山野。アスベスト工場の周囲で、雪景色のように真っ白になった町や畑。
さらに、リサーチでの聞き取りや家族へのインタビューの音声が、ヘッドホンを装着した俳優が耳で聞き取りながら復唱する「シャドーイング」によって伝達されることも、本作の大きな特徴である。「川狩り」の独特の用語、語り口の聞き取りにくさ、記憶の曖昧な言い淀みなどをわかりやすく整理するのではなく、「他者が語った言葉」を、その他者性を保持したまま伝達すること。ここに、「言葉を運搬する人」という俳優の原理的な機能が示される。
[撮影:中谷利明]
終盤のモノローグでは、物資や労働力が集められる「港」のように、さまざまな人の口から断片的に語られてきた語りやキーワードが集積し、支流が合流した大河となって海へ注ぎ込む。飛騨の山奥から川を使って輸送された木材。近代に開発された製紙技術と、その技術に基づくアスベスト産業。昭和15(1940)年という戦時中に作られたアスベスト工場。富士の山麓からは、木製の飛行機が南へ向かって飛び立つ。木材加工技術もアスベストも共に戦争利用されたが、富士山もアスベストを被った風景も美しい。労働や生活の変化は微細で、空気中には目に見えないアスベストの粒子が漂う。何かの決壊のように、あるいは押し寄せる波のように、大量の白いゴルフボールが奥から座席へ向かって転がり、押し寄せ、やがて静寂のうちに「白く変容した風景」を作り出す。そして、散らばったゴルフボールもまた、出演者らがデッキブラシで打ち合い、ゴルフともホッケーともつかないスポーツに転じていく……。
[撮影:中谷利明]
語られた記憶、他者の言葉を語り直すこと、労働とスポーツ、演劇/遊びを往還する「プレイヤー」としての身体、モノの運搬と視点の移動、メタファーとしての物質による空間の変容といった仕掛けを散りばめた本作は、演劇という形態によって開かれる近現代史の語り方を開示していた。
鑑賞日:2026/03/23(月)