会期:2024/02/23~2024/04/14
会場:東京ステーションギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202402_yasui.html

本展は、愛知県美術館(2023年10月〜11月)、兵庫県立美術館(2023年12月〜2024年2月)での展示を経て、東京ステーションギャラリーに巡回してきた。安井仲治の写真については、1980年代以来、これまで何度も書いてきたし、残された作品もほぼ目にしてきたつもりでいた。だが、ヴィンテージ・プリント140点、モダン・プリント60点というこれまでの最大規模の回顧展に足を運んで、あらためてその凄みに圧倒される思いを味わった。写真という表現メディアの可能性を思うままに拡張するとともに、その最も深い部分にまで目を届かせた彼の仕事は、文字通り「日本近代写真の金字塔」としての輝きを放っている。それにしても、1942年に彼が逝去した時の年齢が、38歳であったことには驚かされる。もし安井が戦後まで生を保っていたとすれば、日本写真史の地図は大きく塗り替えられていたのではないだろうか。

「仲治誕生」「都市への眼差し」「静物のある風景」「夢幻と不条理の沃野」「不易と流行」の5部構成で、1920年代から40年代までの安井の軌跡を追う展示の構成は、よく練り上げられており、ほぼ過不足がない。先にも述べたように、そのほとんどは既知のものなのだが、今回はコンタクト・プリントを含む資料展示が充実していて、新たな視点が浮かび上がるものも数多くあった。例えばフォト・モンタージュ作品《凝視》(1931)は、トリミングした4枚のネガから合成されていて、そのうち2枚は裏焼きになっていることなど、今回の調査で初めて判明したことだ。また、これまであまり取り上げられてこなかった作品《魚》(1938)の重要性が、カタログに再録された中島徳博の講演「安井仲治と1930年代」(名古屋市美術館、2005年2月)で明らかにされたことなど、安井仲治研究の進展を実感することができた。若い世代の写真関係者にぜひ見ていただいて、安井の遺志を引き継いでいかなければならない──そんな思いを強く抱かせてくれた展覧会だった。

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鑑賞日:2024/02/27(火)