会期:2025/04/05~2025/06/15
会場:東京ステーションギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202504_tapio.html
カイ・フランクの作品といい、フィンランドのモダンデザインは質実剛健でありながら、どこか優美さを湛えたイメージがある。それは豊富な森林と湖、神秘的なオーロラなどからもたらされる雄大な自然観から来るものなのか。フィンランドデザイン界の三巨匠の一人とされる、タピオ・ヴィルカラの作品もまさにそうだった。本展を観て、ヴィルカラのボーダーレスな表現活動にまず驚いた。イッタラ社のガラスデザイナーとして活躍したばかりでなく、陶磁器や銀器、宝飾品、照明、家具、グラフィック、空間にまで及んでいたからだ。例えばフィンランド航空の機内用食器やフィンランド・マルク紙幣のデザインなど、国家的プロジェクトにおいても手腕を振るったようで、当時から国内で高く評価されていたことがわかる。展示作品の数々もダイナミックさと洗練さの両方を併せ持ったフォルムが多く、眺めていて飽きることがなかった。その卓越した造形力に思わず嘆息したのである。
展示風景 東京ステーションギャラリー3階展示室[© Hayato Wakabayashi]
また会場の所々でヴィルカラの言葉の抜粋が紹介されており、それも逐一目を引いた。なかでも、「すべての素材には不文律がある。決して乱暴に振る舞ってはならない。デザイナーの意図は、素材と調和するものではなくてはならない」という言葉が非常に印象に残った。ものづくりに真摯に向き合ったデザイナーでなければ、こんな言葉は出てこない。あらゆる素材を扱ってきたヴィルカラは、自分の手で一つひとつに触れながら、まさしく素材と対話してきたのだろう。だからこそ素材の特性を存分に生かし、さまざまな表情を引き出すことができたのではないかと想像する。
展示風景 東京ステーションギャラリー2階展示室[© Kohei Take]
中年期以降はフィンランド最北地のラップランドにある小屋に定期的に通い、心身を休めながら仕事に向き合ったというヴィルカラ。静寂と孤独のなかで、自らの感性をより研ぎ澄ませていったというのも理解できる。彼が生涯にわたって目を向けていたのは、フィンランドが育んだ雄大な自然であり、その恵みである素材なのだろうから。21世紀の情報社会から見ると、そんな彼の創作活動がとても眩しく映ったのだった。
展示風景 東京ステーションギャラリー2階展示室[© Hayato Wakabayashi]
鑑賞日:2025/04/22(火)