2022年10月01日号
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artscapeレビュー

安井仲治 写真展 1930-1941

2011年07月15日号

会期:2011/06/06~2011/07/31

写大ギャラリー[東京都]

何度見ても、安井仲治の作品には驚かされる。「安井仲治は日本近代写真の父である」と喝破した森山大道をはじめとして、多くの論者がその天才ぶりに驚嘆し、38歳という早過ぎた死を惜しんでいるが、それでもなおまだ充分な評価を得ているとはいえないのではないだろうか。今回の東京工芸大学中野キャンバス内の写大ギャラリーでの展示を見ても、この人の存在は時代に関係なく底光りをする輝きを放っているように思えるのだ。
今回は新たに収蔵された安井のモダン・プリント30点のお披露目ということで、1930年に「第3回銀鈴社展」に出品された「海港風景」から、早過ぎた晩年の傑作《雪》(1941)まで、ほぼ過不足なく彼の代表作を見ることができた。人によっては、彼の作風が余りにも大きく広がっていて、その正体がつかみにくいと思ってしまうかもしれない。シュルレアリスムの影響を取り入れた「シルエットの構成」(1938頃)のような作品から、メーデーのデモに取材した《旗》《検束》《歌》(以上1931)、切れ味の鋭いスナップショットの「山根曲馬団」シリーズ(1940)など、たしかに同じ作者の作品とは思えないほどの幅の広さだ。だが、現実を内面的なフィルターを介して独特の生命感あふれる映像に再構築していく手つきは見事に一貫しており、どの作品を見ても「安井仲治の世界」としかいいようのない手触りを感じる。『アサヒカメラ』1938年5月号の「自作解説」に「自分が小さい智慧で細工出来ぬ姿に出くわした時は其儘素直にこれを撮ります」と記した《秩序》(1935)のような作品を見ると、彼がアメリカやヨーロッパの同世代の写真家たちと、ほとんど同じ問題意識を共有していたことがよくわかる。この「トタン板の切れっぱし」の集積のクローズアップは、ウォーカー・エヴァンズの写真集『アメリカン・フォトグラフス(American Photographs)』(1938)におさめられた「ブリキの遺物(Tin Relic)」にそっくりなのだ。
なお、会場に置いてあった芳名帳を兼ねたスケッチブックに「写大ギャラリーはオリジナル・プリントを展示する場所だから、モダン・プリントはよろしくないのではないか」という指摘が記してあった。だが、写真家の死後に制作されたモダン・プリントも、オリジナル・プリントの範疇には入る。ただ、写真家自身が最初にプリントしたいわゆる「ヴィンテージ・プリント」とは、位置づけが違ってくることは否定できない。今回のモダン・プリントはほぼ完璧な出来栄えだが、混乱を避けるためにも、このプリントが誰によって、どのような経緯で制作されたのかを、会場のどこかに明記しておく方がよかったのではないだろうか。

2011/06/16(木)(飯沢耕太郎)

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