
会期:2026/06/27~2026/09/06
会場:下山芸術の森発電所美術館[富山県]
公式サイト:https://nakajimatakashi.net/artworks/2026-06-下山芸術の森-発電所美術館/toyama/
富山県入善町・下山芸術の森発電所美術館(以下、発電所美術館)で「中島崇個展 水跡 – traces of energy -」が開催された。1926年に建てられた水力発電所の建物を北陸電力より譲り受け、1995年にオープンした発電所美術館はこれまでも場所の特性を活かした展覧会企画や作品を公開してきた。水跡と題する本展では、中島が用いてきたストレッチフィルムがかつて発電所で流れていた水の痕跡を伝える媒体となり、力強い水流や水圧のイメージで館内を満たしていた。
本展より[筆者撮影]本展は1階に広がる《水跡 mizu-ato》と、吹き抜けの空間に設置された階段の上にある《JACOB ヤコブ》の2作品からなる。1階の壁にはタービンを取り外した導水管が2つ並び、巨大な空洞が見えている。《水跡 mizu-ato》はそこから流れ出ていた水の動きを想像させるかのように、導水管と対面の壁との間に透明のストレッチフィルムを平行状に張っている。
フィルムは窓からの光を反射して平行線を強調し、水力発電における膨大な水量、水圧のイメージを伝える。空間いっぱいにフィルムが満ちているように見えるが、内部には鑑賞者が入っていけるスペースが3カ所ある。うち2カ所は導水管の進路に位置し、水流の中を歩むようにして空洞の深部を覗くことができる。インスタレーションの内部から無数に重なるフィルム越しにほかの鑑賞者や発電所の機材を眺めると、曖昧な過去の記憶を映すかのように像が滲む。作家によるテキストには、水力エネルギーの軌跡に加えて、かつてこの空間で展示をしてきた作家のエネルギーを表わすことも企図したと書かれている。

本展より[筆者撮影]
1階の《水跡 mizu-ato》が地上に対して平行であるのに対し、2階の《JACOB ヤコブ》は垂直状にフィルムが設置されている。この作品は1階のエネルギーが蒸留して空へと還るような、水における循環のイメージが基盤にあるという。
中島はストレッチフィルムを用いることについて、「本来『モノ』を包み守るための梱包資材を、空間そのものに再定義するためのメディウムへと転換する試み」と述べている★1。覆うことによって物を起点とする空間を視覚化する梱包材が、ここでは物それ自体となって空間と関わり合っている。
ところで、本作はスマートフォンで記録することが著しく難しかった。肉眼では、幅10センチほどのフィルムの面の形状とその重なり合いによるやわらかい光や、その移ろいが捉えられるのに対して、カメラを介するとフィルムがエフェクト醸成装置となって、光の反射を白い線として強調してしまう。画像において光の様子が強調されることで後景化してしまうストレッチフィルムの素材感や質感が、本作の強い魅力でもあった。フィルムやテープといった身近な素材が光や水のイメージを伝えるメディウムへと変容している様子がはっきりと感じられ、水やエネルギーの存在感を想像したり、見立てたりする行為が生活の地続きにあることを感じさせる空間だった。
本展より[筆者撮影]
本展より[筆者撮影]鑑賞日:2026/08/30(日)
★1──「ABOUT」『中島崇』
https://nakajimatakashi.net/about/