
会期:2026/09/19~2026/11/23
会場:渋谷区立松濤美術館[東京都]
公式サイト:https://shoto-museum.jp/exhibitions/213rojo/
法治国家では、道路や公園、広場など公共の場での活動は、ある程度制限されている。移動のために通ったり、休憩のためにベンチに座ったりするには、その方が安全に過ごせて良いが、一方で多くの人々が行き交う場は、芸能や商いなどの文化交流が生まれる素地ももっている。そうした統治と自由の両方を併せもつのが公共の場なのだ。かつて日本には寺社の門前や宿場町に「公界(くがい)」と呼ばれる自由な空間が存在していたという。本展はそんな現代の公界ともいえる「路上」にスポットを当てた、ユニークな内容であった。路上での前衛的な活動といえば、画家・作家の赤瀬川原平や建築史家・建築家の藤森照信らによって40年前に結成された「路上観察学会」がある。本展では同会の歩みを起点としながら、現在まで続くさまざまな路上活動をすくい上げていた。


「路上観察学会」については、1986年発足当時、私はまだ子どもだったためその存在を知らなかったが、後から伝説的な団体として知った。本展で改めて眺めてみると、時代を象徴しているとつくづく感じる。というのも1980年代は高度経済成長期が終わり、ちょうどバブル経済へと向かう端境期である。人々の暮らしが一様に豊かになり、都市の近代化がますます進みながらも、現代のようなデジタル社会にはまだ突入していなかったため、牧歌的な空気がどこかに残っていたときだ。その端境期ゆえの社会のゆがみが、同会メンバーには不思議さやおかしみとして映ったのだろう。それらに対して「超芸術」や「トマソン」といった言葉を当てはめ、愛をもってフィーチャーした姿勢は前向きかつ躍動的で、現代にはないある種の余裕を感じてしまうのである。
展示風景 渋谷区立松濤美術館[撮影:森田兼二]本展は同会の40周年を契機としながらも、しかしそれをただ懐かしむだけの内容ではない。現代アーティスト、鈴木康広が公園にある球体の回転遊具を用いてその残影を作品化した《遊具の透視法》や、96歳の現役大道芸人、ギリヤーク尼ヶ崎の活動映像や写真。またChim↑Pom from Smappa!Groupが「アジアン・アート・ビエンナーレ」で国立台湾美術館の内外に敷設した《道(Street)》のインスタレーション映像、都内各地で取り壊されていく銭湯建物の部材を用いて、山車に組み換え、街を巡行する《銭湯山車》など、路上に関係する現代美術や活動がいくつも紹介されている。既存の制度やルールを問い直す活動には、いわばアウトロー的な匂いがしないでもないのだが、こうしたテーマを渋谷区松濤の地で扱った点が何より興味深く感じた。
展示風景 渋谷区立松濤美術館[撮影:森田兼二]鑑賞日:2026/09/29(火)