会期:2024/02/17~2024/04/21
会場:東京日仏学院[東京都]
公式サイト:https://culture.institutfrancais.jp/event/exposition-riding-modern-art-by-raphael-zarka

巨大な野外彫刻を写したモノクロ写真が並ぶ。彫刻はリチャード・セラ、バーネット・ニューマン、リチャード・ディーコンらによる緩い曲線か直線で構成された抽象形態が多い(例外的にピカソの半具象的な人物像もある)。それだけならモダンなパブリックアートの写真にすぎないが、よく見るとその表面をスケートボーダーが滑っているではないか。最近はあまり顧みられることが少なく、ときに邪魔者扱いさえされるパブリックアートが、欧米ではこのように有効活用されているという好例だ。いや悪例か。

作者はフランス生まれのラファエル・ザルカ。幾何学的形態の変遷について芸術や科学技術、そしてスケボーのようなポップカルチャーの側面から学際的に探求するアーティスト。現在、銀座のメゾンエルメス・フォーラムで開催中の「エコロジー:循環をめぐるダイアローグ2 つかの間の停泊者」(5/31まで)では、「斜方立方八面体」についての研究も披露していて興味をもった。この「ライディング・モダンアート(モダンアートに乗る)」は、幾何学的な抽象彫刻の上を滑走することで作品に内在するダイナミズムを追体験し、可視化させようとしている。理屈はつけようだが、単純にパブリックアートの上を滑るのが愉快だ。

会場では、展示作品を含め約50点の写真を掲載したポスターが無料配布されている。それを見ると、実施された場所はドイツ、フランス、アメリカなど欧米の都市が中心で、オーストラリアや中国もあるが、日本は東京にある五十嵐威暢の彫刻だけ。なぜなら日本にはスケボーが滑れるくらいスケールが大きく、堅牢な素材のパブリックアートが少ないからであり、またスケボー文化自体が根づいていないからでもあるだろう。そもそもこれは違法行為なので(いちいち許可を取っているとは思えない)、警察をはじめとする日本の管理社会が寛容でないことも理由のひとつだ。グラフィティをはじめとするストリートアートが育たないのも、バブル後に林立したパブリックアートがいまや無用の長物と化しているのも、同じく「パブリックで遊ぶ」という余裕がないからだと思う。

鑑賞日:2024/03/13(水)