次世代オーディオガイドに期待
規模の大きな美術館や博物館に行くと、音声で美術作品についての解説をしてくれるオーディオガイドを500円くらいで貸してくれる。知識を得るためにはとても有用だが、思いのほかその入手・返却手続きが面倒でもある。
観光客が集まる海外の大きな美術館では、多国語のガイドが用意されている。500年以上の歴史を持ち世界最大級の美術館であるヴァチカン美術館で、オーディオガイドをクレジットカードを担保にして借りたのだが、閉館時刻が来てしまい慌てたことがあった。海外でのハプニングは、それ自体思い出の1ページではあるが、返却しなくてすむオーディオガイドのようなものが、デジタル技術の導入やデジタルアーカイブの利用によって考案されれば、作品鑑賞の質を高めるのに役立つことだろう。
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電波ポスターの仕組み
大日本印刷(株)が開発したICタグと携帯電話を使った情報配信システム「電波ポスター」。これは純粋に美術鑑賞のために開発されたシステムではないことはその製品名でもわかるが、利用者のケータイに情報を送る次期ミュージアムガイドとなる可能性を秘めている。
電波ポスター自体は、固有のIDを設定したICタグリーダを専用の什器の背面に組み込み、イベントのポスターを表面に貼付してある。高さ50×横40×奥行き25cmほどのサイズ、重さは約12kg、100V電源が必要である。
利用者が持つことになる超小型のICタグには、あらかじめ記録された固有IDと利用者のケータイのメールアドレスを関連づけサーバに登録する。利用者がICタグをポスターに接触させず、かざすだけで、固有IDとリーダIDを専用のサーバに送信。
サーバは、リーダIDに対応した情報を、読み取った利用者のIDに対応したメールアドレスに自動送信(電子メール)する。
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美術展のユビキタス化
この電波ポスターを利用して、2005年11月5日(土)にはアートスケープ10周年企画として「横浜トリエンナーレ2005」の会場で入場者のケータイを用いた、モバイル展覧会ナビゲーションが実験的に実施された。
会場5カ所(入口、3号倉庫、4号倉庫、山下公園、中華街)に設置された電波ポスターに、参加者(先着150名)がICタグをかざすと、ポスター周辺に展示されている作品の解説が、それぞれのケータイに自動送信された。展示されている全71作品について、村田真、市原研太郎、原久子など、アートスケープの執筆陣がレビューを提供。情報の書き換えもできるため、アートスケープ編集部が会場内の情報をリアルタイムに配信した。
当日は半日イベントにも関わらず好調にデータが収集されたことを受けて、大日本印刷(株)はこの「電波ポスター」をさらに改善し、アートイベントや全国の美術館・博物館にユビキタス化を進める「電波ポスター」を紹介して行く予定と言う。
手許のケータイで詳しい作品解説を読むことができたり、その情報を画像とともに持ち帰ることができるなど、従来のオーディオガイドとは異なるミュージアムとケータイの新たな関係が生まれそうである。 |
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[ artscape編集部 ] |
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