ミュージアムのホームページを見て、「収蔵品」や「コレクション」というところを期待しクリックしたところ、「キーワードを入れて下さい」という検索画面がいきなり出てきたためその先に行くのを敬遠してしまったという人は多いのではないだろうか。
ネットワーク上で多くのミュージアムのデジタルアーカイブを見ることができるようになってきたことは喜ばしい。しかしながらそれが一般の美術愛好者にフィットしたサービスの達成と言えるまでには、まだ先は長いと言わざるを得ない。
ホームページ上の「収蔵品」、「コレクション」、「データベース」、「デジタルミュージアム」、「バーチャル(仮想)ミュージアム」などというところからデジタルアーカイブに行き当たることが多いが、必ずあるはずだというつもりで試行錯誤しながら見ていないとなかなか見つからないところがあって、これではせっかくの努力が多くの人々に享受されない。
次に、入り口がわかったとしてよく出てくるのが「キーワードを入れてください」である。では何を入れたらよいのか。
インターネットの世界でよく使われている汎用検索エンジンなら、多くの場合、何をいれても何かは出てくる。しかし、ここではその館になにがあるのかあらかじめある程度わかっていなければ何もでてこないということが多い。
もっとも糸口があることもあって絵画・陶磁器などの作品分類や時代区分などはプルダウンメニューから選択できるし作家名一覧を出しているところもある。ただ作家名一覧もあまり多いと「あいうえお……」などで示される頭文字を何か指定して一覧を出したところで、図録をぱらぱらとめくるように楽しく探すというわけにはいかない。
まずは比較的使いやすいものを以下にいくつかあげてみよう。
岩手県立美術館ではここの目玉が萬鐵五郎、松本竣介、舟越保武ということはすぐにわかるから、例えば「デジタルレファレンス」の条件検索で作家の項目だけ「松本竣介」と指定すると1ページ平均8作品分のサムネイル画像25ページを出すことができ、指定すれば拡大が可能である。数年前に没後50年が過ぎたとはいえこれは壮観であり喜ばしい。しかしこれだけ多いと逆に作家についての簡単な説明以外に何もないというのでは、ただ絵がたくさんあるというだけで、その絵にまつわるいろいろな話、他の絵との関係など、つまり文脈(コンテキスト)を得ることができない。
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石川県立美術館の「所蔵品データベース」では単純なキーワード入力以外に作家名、様式・テーマ、ジャンル、年代などから検索でき、それらはいずれもキー入力なしに一覧から選べるようになっている。もちろんこれらの条件を文字入力で指定する「絞込み検索」も提供されている。画像の拡大機能が充分なこともあわせ、親切なデータベースという観点では評価できる。「学芸委員おすすめ名品選」と合わせればひとつの目標たりうるであろう。
鳥取県立博物館も石川と同様にその「収集資料データベース」はさまざまな絞込みをメニュー選択でできるようになっており、県立博物館という性格から、美術館よりは広範な対象に加え年少者への対応を基本におきながら、大人の要求にも耐えるものになっている。
山口県立萩美術館・浦上記念館の「収蔵作品検索システム」では多くの浮世絵を見ることができるが、絵師名から入る画面と操作が見やすく親切である。また検索とは関係ないがここでは葛飾北斎の富嶽百景、北斎画譜、北斎漫画の全ページを見ることができる。山口県立の他の館もここ同様、力が入っているのは評価されてよい。
早稲田大学坪内博士記念演劇博物館では、役者の浮世絵を検索できる。検索条件を入力できなければ全件をサムネイルなどで順に見ることから入るしかないが、その説明文中から作者名、役者名、画題名などをクリックし、いろいろなリンクをたどる楽しみがある。これは重要なことである。
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左:石川県立美術館「所蔵品データベース、
右:鳥取県立博物館「収集資料データベース」 |
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左:山口県立萩美術館・浦上記念館「収蔵作品検索システム」
右:早稲田大学坪内博士記念演劇博物館「デジタルアーカイブコレクション」 |
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では大きいものとして、国立の館はどうだろう。東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館は4つあわせてひとつの独立行政法人であるが、全体共通の「所蔵作品総合目録検索システム」を持っている(たとえば東京国立近代美術館のトップからは情報検索をクリックして入るがこれもわかりにくい)。ごく普通の絞込み検索機能であり対象がひろいだけに、4館あるいはそのどれかの全体像についてコレクション概要などの情報がないと検索という行動は取りにくいだろう。
東京国立博物館では「館蔵品ギャラリー」が益々充実してきておりこれだけでもかなり楽しめるが、それでも分類区分で絞り込んでサムネイル一覧から選ぶと言う形式であり、またデータベース全体としては一般の絞込み検索である。
このように不満もある一方で、データベースそしてその検索というものについては、あまり易しい見せ方をするとその本質からはずれてしまうというのも、もっともな考え方である。
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左:所蔵作品総合目録検索システム
右:東京国立博物館「館蔵品ギャラリー」 |
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それでは今後どのような方向を考えたらよいか。
まず、データベースとしての充実、そのできるだけ広範囲な公開と、これまで述べた良い例のような検索サポートは見習っていただき、それに学芸員の努力で名品選のようなものを充実していただく。また既存の収蔵品ガイドなどでよいものがあればそれをデジタルデータで公開し、館のデジタルアーカイブとリンクする。例えば『近代日本の美術
東京国立近代美術館ギャラリーガイド』(東京国立近代美術館、1997)のようなものがデジタル化されていればよい。また大原美術館のWEB展示室(点数は多くないが)のように、その絵を入手したときのエピソードも含めた興味をひく解説も効果的である。
その次であるが、ミュージアムサイドの工夫・努力だけでは無理なところもある。こんなものはどうだろうか。
館の収蔵品の一部についてでもよいからガイドやナビのような文章がネット上に掲載されていたとして、それにデジタルアーカイブの公開情報・画像がリンクされれば、ここでは検索画面という辞書のようなものにいきなり接するのではなく、物語や観光ガイドを手に取る気安さがあるだろう。館の関係者によって作られたものがないわけではないし、外部の愛好家や観光ボランティアなどの方々で何か書くことができる人たちは少なくないのではなかろうか。すでにネット上に存在しているかもしれない。
これらのなかには、見方や考え方が異なっているものもあるだろうし、記述の正しさの検証に問題があるものもあるだろう。しかしそれは次第に淘汰されていくとして、複数のいろいろな見方を許容してもよい。
要はそういうものをまとめて紹介するところが当のミュージアムサイトからリンクされているということが大事である。ミュージアム友の会などがあるところはそこがやってもよい。その結果、多くの人々にとって「キーワード」の引き出しが豊かになる。
デジタルアーカイブは「非接触手段」によるコレクションの民主化・大衆化という側面をもっているが、上記の形態はコレクションに関するガイド、文脈(コンテキスト)についての非接触な拡がりということができる。
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2006年3月 |
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「デジタルアーカイブ百景」とは? |
デジタルアーカイブは今どこまで来ているのか。インターネットの世界で見えてくるものをいくつかのテーマを切り口に紹介してより多くの人々が享受するきっかけを提供するとともに、今後さらに進展していくための課題に言及し提言を行なう。アート系の美術館を中心とするが、地域の特徴を反映した博物館も対象とする。2006年1月より連載開始。 |
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[ かさば はるお ] |
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