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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
岩手──創造の淵にわけいるデジタルアーカイブ
笠羽晴夫
 岩手県は時に汲めども尽きせぬ創造力をもった人を産み出すというイメージがあり、地理的なものばかりでなく東北の奥深さを感じさせるところである。
岩手県立博物館
岩手県立博物館
 県の文化一般をながめるため、先ず岩手県立博物館を見てみよう。
 ここの「展示室案内」から入ると、地質、考古、歴史、民俗、生物などの分類で収蔵品が数点ずつ、画像と手際よい説明で紹介されている。ただし収蔵資料室の本格的な紹介は準備中とのことであり、検索機能などともに今後に期待したい。またここでは「文化財科学」という部門があり、その仕事である資料の保存・管理、科学分析・保存処理について説明がされている。これは博物館の意義に関する積極的な情報発信として理解できる。
 さらに特色あるものとして、「これなあに?」という項では、分野ごとに並べられた事項の画像と館員の説明をあいうえお順に引くことができる。未完であるが、完成までのプロセスが見えるようになっており、見るものの興味を引くものである。こういう館員の活動の積み重ね、これもある意味でのアーカイブであり、注目すべき試みだ。
 ここにあった美術資料は2001年の県立美術館の開館とともにそこに移管され、デジタルアーカイブの整備も美術館が先行したが、今後はこちらにも期待したい。
一関市博物館
一関市博物館
 
県内地域に関する博物館では一関市博物館が注目される。
 この地の歴史、特に近世の学問に関するレベルの高い研究とその発信は、この博物館の品格を物語るものである。「館蔵品から」では、一関のあゆみ、舞草刀と刀剣、玄沢(大槻)と蘭学、文彦(大槻)と言海、一関と和算、一関ゆかりの美術家の作品というカテゴリで、そのイメージがつかめるよう画像が提供されている。ただし書物についてはそれをめくれるわけではない。館蔵品検索機能もあり、デジタルアーカイブとなっている文書もあるようだが、あらかじめここに何があるか知っているものでないと、キーワード選択から検索するのは難しい。初心者と専門家の間のレベルでガイドがあるとよい。デジタルアーカイブ化の進展とともに今後に期待したい。とにかくこの地の文化程度の高さを示すという意味でも評価できる。
 さて岩手というと文学、特に詩歌を外すことはできない。北上市の日本詩歌文学館には、現代詩歌に関する総合資料館たらんとする意気込みが見られる。ただここでも、蔵書検索はできるが、キーワード検索のみであるので、もう少しどんなものがあるのか、例えば詩人一覧などがあればと考える。
石川啄木記念館
石川啄木記念館
 ここで有名な詩人といえば、石川啄木、宮沢賢治であり、まず前者には石川啄木記念館(盛岡市)がある。
 啄木の生涯・作品の普及・啓蒙としてはまずまずだが、所蔵資料については目録のみであり、画像はない。また他の資料所蔵館も紹介しているが、せめてそれらのURL位は掲載すべきであろう。
 一方、宮沢賢治には(花巻市立)宮沢賢治記念館がある。 ここでは記念館展示分類項目が箇条書きで示されるにとどまっている。ただし宮沢賢治は市の観光資源であり、市ホームページの観光コンテンツから入ると多くの情報が出てくる。
 とはいえ長期的には記念館のデジタルアーカイブとして検討したほうがよいのではないだろうか。これらデータの確実な保存という意味でも。
 広い意味での文学でゆかりの人といえば柳田國男がいる。「遠野物語」の遠野市には市立の「とおの昔話の村」(柳田にちなんだ旅館などを移築したもの)、市立博物館などがあるが特にデジタルアーカイブはない。ただ遠野市のホームページではこれら二つのほか、観光マップ、歳時記(イベント情報)、ふるさと遠野大使の紹介など、地域全体については見易さに配慮がなされている。とくに遠野郷地域まるごとガイドはよくできている。
 ここも花巻と似た傾向があるようだ。
岩手県立美術館
岩手県立美術館
 さて次は岩手県を代表する三人、萬鐵五郎、松本竣介、舟越保武である。
 萬には単独の萬鐵五郎記念美術館があるが、2006年に東和町が花巻市に合併したのち、サイトの整備が進んでないようである(こういう面でも市町村合併は考えさせられるところである)。
 三人を軸に据えた岩手県立美術館は、前にも取り上げた。検索では、作家名一覧から単独の人とその作品を出すことができる。がしかし、もう少し読み物的なものがあって、そこから具体的な個々の作品につながるような構造がほしいのは、かねてから指摘しているとおりである。またこの三人以外だと、人となりの説明にも乏しい。
 基本的には今のデータベースのまま、工夫次第でもっと多くの人が興味をもち、そこから深く入っていく過程で、また関連する事項のつながりで、横にいろいろたどり、作品に行き着く、そういった利用形態の想定がほしい。そうなればまたこの三人とその作品について、汎用検索エンジンのヒット率向上が見込まれ、来館者の増加、地域の観光につながるだろう。
 
これだけの事例で岩手県の一般論というのには無理があるが、まとめてみると、たとえば花巻市の地域情報発信は非常に充実しており、そのなかに宮沢賢治、萬鐵五郎も位置づけられている。遠野市にも同様のことが言える。ただ、宮沢賢治くらいになれば、一般愛好者も多く、その資料については、記念館レベルのデジタルアーカイブがあっていい。
 その一方で、萬鐵五郎、松本竣介などのデジタルアーカイブについては、そのデータベースの公開はよいとして、背景の情報、作品とそれらとのつながりがもっと収集され公開されることが求められる。これは公的な機関の責任ばかりでなく、このWeb2.0時代にそのような情報氾濫の兆しが見えないことが、美術愛好家の行動様式も含めた問題である。岩手県というところが何か創造の深い淵を感じさせるだけに。
2007年4月
[ かさば はるお ]
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掲載/笠羽晴夫
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