掲載/歌田明弘|
掲載/影山幸一
カタログ受難の時代を迎える?
──オープンした文化庁の「文化遺産オンライン」
歌田明弘
作品検索の方法
この欄でミュージアムのカタログのことを何度か書いたが、個人的にもカタログについて考えざるをえない事態になった。ある事情で本を置いてあった場所を半分にしなければならなくなり、捨てるカタログと残すカタログを分けることになったのだ。
私の本は、本棚にあるもの以外はすべて著者名とタイトルをコンピュータに入力して段ボールの箱の中に入れてある。コンピュータで著者名かタイトルを検索すれば、何番の箱に入っているかわかる仕組みである。一冊一冊入力するのはもちろんかなりの手間で、その手間に見あっているかというと、じつはそうではないのが哀しいところだ。段ボールに入れてしまった本を取り出すことはじつはあんまりない。本が増え続けたこの20年ほどのあいだに私自身の関心がずいぶん変わってしまったし、このコラムも含めてだいたいが新しい出来事について書くことが多いので、昔の本をひっくり返して見る必要が少ないのだ。でも、途中でやめると何にもならないので、惰性のように続けている。
それはともかく、カタログについて捨てるものと残すものを分ける基準を作るのは簡単だった。
アーティストやエコールなどで編まれた本は残す。ミュージアムの所蔵品カタログは捨てる。なぜそうするかは明らかだろう。たとえば『国立西洋美術館所蔵品カタログ』といったものについて、タイトルと著者名のデータベースを検索して取り出して見る可能性はほとんどない。「ゴッホのあの絵はどんなだっけ」ということが起こったとき、その絵の写真がこのカタログにあったとしても、西洋美術館にあることを覚えていなければどうしようもない。そうしたことを覚えていない私には、美術館・博物館の所蔵品カタログが役立つケースはほとんどない。そのミュージアムにどんな作品があるのかを知りたいというきわめて稀なケースにしか役立たない。
こうしたことは、本棚にカタログを置いている人でも同じだろう。所蔵しているミュージアムと交渉しなければならない学芸員などの特殊な人を除いて、そのミュージアムの所蔵作品が何だったかを知る必要があることは滅多にないのではないか。せっかくの高価なカタログで、作ったほうにとっても買ったほうにとってももったいない話だが、結局、作品を探し当てるのに不便なこの手のカタログの利用方法はほとんどないように思う。
いやそもそもあるアーティストの作品を見たいためだけなら、カタログをとっておく必要はもうかなりなくなっている。検索サイトでイメージ検索をすれば、ウェッブ中の画像をあたって図版を探し出してくれる。図版だけのことならこうやって探したほうが、カタログを探してページを繰るよりよっぽど簡単だ。
期待できる所蔵品検索サイト
さらにミュージアムの所蔵作品の検索は、一般的な検索サイトで探す以外の方法も整備され始めた。この4月には、文化庁が“試験公開版”と銘打って「
文化遺産オンライン
」というポータルサイトをスタートさせている。国や地方の指定文化財、国内の世界遺産などのページができており、国内の美術館・博物館の所蔵作品が横断検索できるようになっている。作品名やアーティスト名で検索できるほか、時代や分野、地域ごとのアクセス・ページもできている。それぞれの作品のページには、画像はもちろん、作家の生没年、作品の制作年、大きさ、所蔵館名などの基本的な情報や簡単な解説に加えて、関連書籍まで検索できる。その書籍がどこの図書館にあるかも教えてくれる。これは、国立情報学研究所の「連想検索」というのを使っているのだそうで、検索キーワードに関連性の高い本を探し出すという。日本語の本268万冊をもとに最新の本も加えられている。
「文化遺産オンライン」では、図版についても関連作品の検索ができるようになっている。たとえばクロード・モネの《睡蓮》のページを開くと、モネのほかの作品や影響関係のある作家の作品がサムネイル付きで並ぶ。そのうちのひとつをチェックして、「探す」というボタンをクリックすると、チェックした作品をもとに関連作品が検索される。結果ページからさらに別の作品を起点にして探したり、キーワードを加えて検索したりできるようになっている。
ミュージアムの個別サイトごとにいくら所蔵作品の図版が載っていても、カタログの場合と同様に利用価値は限られる。しかし、逆に、関心のある作品のほうから検索して所蔵館を見つけられれば、どこへ行けばオリジナルが見られるかがわかる。ただ旅先の美術館に入るのではなくて、「あの絵を見に行こう」ということで旅行先を決めることもできるわけだ。そのためには、現在公開中かどうかもわかるようになっていればもっといいだろう。
オープンして間もない現在は、データ整備中のミュージアムが多い。そうしたミュージアムを入れても34館しかなく、たとえばモネで検索してみたら4作品しかヒットしないといった具合で、利用価値はまだ限られている。しかし、2006年度までには1000館程度のデータを入れる予定だというから、そのころにはかなり充実したものになるだろう。
取っておく価値のあるカタログとは?
こうしたことができるようになってきたのだから、カタログの価値は、そのカタログ(つまり展示)でどのような作品をひとつにまとめてあるかありきたりでない視点と、解説の文章によるだろう。そうした点で価値のあるカタログは依然として取っておくに値する。
本を段ボールに詰めて整理し始めたのは90年代初めのことだった。そのときにはまだウェッブの存在は一般的ではなく、ともかく持っているカタログを全部詰めこんだ。それから11年ぶりに大がかりな片づけをしたわけだが、ウェッブの充実によって、カタログの持つ価値は激変したように思われる。ミュージアムのカタログは「受難の時代」を迎えたともいえそうだが、その一方で、「文化遺産オンライン」では関連書籍の検索までできるようになったのだから、各ミュージアムのカタログを(できれば電子書籍化して)販売することにしたらどうだろう。利用者にとっても美術館サイドにとってもメリットがあると思うのだが。
[ うただ あきひろ ]
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