そういう濃ゆーい世界の実写版とも言えるのが、ナン・ゴールディンの写真集『THE BALLAD OF SEXUAL DEPENDENCY(性的依存のバラッド)』。写っているのはベッドルームでのナンと夫、二人のスナップ、ナンの両親のポートレイト、女性、男性、カップル、結婚式、子供、キスをするカップル、ベッドルームのカップルなどなど。レズビアンやホモセクシャルや女装をした人も含まれていると思われる。そのなかの一枚、夫に殴られた後のナンのセルフポートレイトが凄い。左目の白目が充血して真っ赤で目の周りは腫れ黄色から茶色のグラデーション。右目の下にはクマのように赤茶色の内出血の痕。髪はばっちり整っているとは言えず、額や首には皺があり、あごのラインは首からじんわり押し寄せる肉でゆるやかだ。ほとんど化粧はしていないけれど充血の赤に似た口紅の赤だけぴりりとしている。他の写真で彼女はもっと美しいがこの写真に一般的な美しさはない。そしてその美しくないということがとても大事だと思う。写真は一枚では分からない。この一枚もその他のたくさんの写真があるからこそ凄みが出るのだが、凝縮された一枚だ。興味深い。
そのナン・ゴールディンの一枚を私に紹介してくれたのが鷹野隆大である。今年の木村伊兵衛写真賞を受賞したイケメン写真家だ。受賞作『IN MY ROOM』におさめられているのはすべて男性の、ほとんどがヌードである。マッチョな人、丸みのある女性的な体型の人、細身の人、女装をした人、ズボンをおろしている人、彼らは魅力的でエロティックな雰囲気もあるけれど清潔な感じがする。主に白バックなどシンプルな背景で撮影されているので、ほくろや陰毛の生え方、腕に浮き立つ血管といった身体の表情が際立つ。2006年4月号の『アサヒカメラ』に受賞記事があり鷹野は受賞の言葉として、かつての恋人であり長年のパトロンであった「マサ」への感謝の言葉を書いていた。鷹野ファンとしてマサとはどんな人だろうかという興味がわき、たぶんここに名前があるのではと写真集の終わりのほうにあるモデルの名前リストを見てみた。あったあった、29ページね、ふんふんとそのページを開くと見開きで左ページは鷹野のヌード、右ページはマサのヌードであった。はー!?……ははーん!!隣にいるというのもナンだけど、本を閉じれば二人はぴったりと密着するということになるではないか。私はその仕掛けに、やらしぃ〜!と唸り男のエロの執念深さを見てファンとしてはやはりむむむむと嫉妬したわけだ。展覧会で写真を見るのとは違う、本だからこその面白さと言えるが、アンタ、すでに完売となったその写真集は買われていった先々の家の本棚におさめられ、そこで二人は静かにずっとくっついてるんですよー!ちょっと、ちょっとー!!先に挙げたお姉様たちより業が深いんじゃないのー!