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ゼロダテ/大館展 2008
約束としての絵──東島毅 展「絵〜Picture」
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青森/日沼禎子(国際芸術センター青森) |
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昨年もレポートした「ゼロダテ/大館展」だが、今年はアーティスト・イン・レジデンスを取り入れたプロジェクトを展開。旧山田小学校を滞在先とし、メイン会場となる大町商店街における空き店舗などで制作・展示を行なった。レジデンスとなった山田地域は、大町商店街から車で20分ほどの田代町内にある。全国のいずれの市町村の状況と同様に児童数の減少による学校の統廃合が進み、田代町にあった小学校6校は2校となった。3月に閉校したばかりの旧山田小学校は、今にも元気に走り回る子どもたちが現われそうである。そこで21名のアーティストたちが、毎日の生活を共有した。近隣の人々も自然と集まり、制作が佳境となり自炊もままならないときには、あたたかな食事の差し入れもあったのだという。そうした日々のなかで、アーティストたちは心地よさのなかにも、集中して創作活動に打ち込む時間を与えられたのだ。
アーティスト・イン・レジデンスは、地域資源を再発見し、人々の交流を生み出し、アーティストの表現に、借り物ではないリアリティをもたらす。山田地域には、400年以上も続く伝統芸能「獅子踊り」があるが、継承者の減少という問題を抱えていた。アーティストの数名は、この獅子踊りを作品に取り入れたダンス、映像作品制作やワークショップを開催。また、新たなに加わった会場として、商店街に隣接する旧・市営アパートの各部屋を使用するなど、少しずつ、かつての町の記憶を取り戻そうという試みもあった。さらに、今年のユニークな企画のひとつが「夜のゼロダテ」。裏通りを一歩入ると、個性的なバーや、スナックがある。それらの紹介MAPを作成し、日中の展示だけではなく、夜の街も楽しんでもらおうというものである。
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さて、全国各地でこうした、地域活性型のプロジェクトが行なわれるなか、各団体や組織が運営上のさまざまな問題を抱えている。「地域」と「運営者」、さらに「アーティスト」とのモチベーションの温度差、環境づくり、継続の有無など。筆者は昨年のゼロダテ会場で、それらの課題についての考えを代表の中村政人氏に対して伺ったが、中村氏からは継続への強い意志と、地域とのつながりへの確信が見て取れた。その決意としての新たな取り組みがアーティスト・イン・レジデンスである。今年のゼロダテについて、事務局であり出展者の一人でもある福田千恵美さん、ボランティアの柴田百合子さんからお話を伺った。双方ともに一度地域を離れて帰省したUターン組である。「自分の街に、こういう取り組みがあることを知り、ともかく会場の掃除から参加し始めました。そのときから、スタッフとして関わることの大切さを感じ、今年は事務局としてアーティストのコーディネート、地域との折衝などさまざまな場面に関わりました」と福田さん。近隣商店街とは「ゼロダテ・サイダー」や「地バーガー」などの商品開発を共同で行ない、好評だったとのこと。柴田さんは「アーティストの創造的活動に触れることで、表現することの大切さを知りました。私は主に会場でのお客様の対応を担当していましたが、自分が作った作品ではないのにとても大切に思え、そのことが自分への癒しにもなっていることを発見しました」とそれぞれ語る。今後は、ゼロダテのイヴェント期間以外にも、スタッフの発案による地域との連携企画を立ち上げていくつもりだ、と抱負を語る。アーティストが媒介者として移動することによって、山田地区と大町商店街との交流が生まれ、そしてまた、それらの出会いは、関わる一人ひとりの生き方をも変えようとしている。「じぶんで、みんなで、この街で」という言葉を掲げるこのプロジェクトは、またひとつ豊かな層を積み重ねることとなった。
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左:写真家の千葉雄と福田千恵美による《エール》
昭和の時代から夜のバーで働く人々を撮りためていた千葉と、今も変わらず働き続ける現在の姿を撮影した福田の作品を並列展示。過去と現在がシンクロすることで、この町で暮らすたくましい人々の姿がよりいっそう強く浮かび上がる
右:熊谷周三《Veil(ヴェール)》
旧市営住宅の一室に、筒状のヴェールを吊り下げたインスタレーション。緑と赤の照明の中、胎児のシルエットが映し出される |
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左:スズキジュンコ《本日も晴天なり☆〜おばけに捧ぐ〜》
旧市営住宅の屋上に、針金とビニールで形作ったたくさんの衣服を洗濯ものが干されるように吊り下げた。記憶に眠るかつての活気、現在の空虚感との境界を行き来する
右:レジデンスとなった旧山田小学校
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ゼロダテのスタッフたち。ZAC(ゼロダテアートセンター)の前で。
以上、すべて提供:ゼロダテ/大館展実行委員会 |
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●秋田県大館市アートプロジェクト「ゼロダテ/大館展2008」
会期:2008年8月13日(水)〜9月7日(日)
会場:秋田県大館市
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小高い丘の上に立って、大きく息を吸い込む時。流れる雲や、絶え間なく揺れ続ける水面を眺める時。私たちは時を忘れ、空想は宙を漂い、ただそこにいることに身を任せる。その感覚を、自由、というのならば、東島毅の「絵」に出合うとき、私たちは、真の自由をこの手にすることができる。
現在、国際芸術センター青森(ACAC)では、秋のアーティスト・イン・レジデンスの特別企画として「東島毅 展『絵〜Picture』」を開催している。東島は、1960年佐賀県生まれ。86年筑波大学大学院修了、88〜90年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)で学ぶ。その後、新表現主義の旗手ジュリアン・シュナーベルと出会い、彼のスタジオで働くため渡米。90〜97年までニューヨークを拠点に活動し、帰国の前年である96年には、国内の優れた平面作家に与えられる「VOCA賞」、「五島記念文化賞 美術部門新人賞」を受賞。2000年の国立国際美術館、07年の岡山県立美術館での個展など、今最も活躍中のアーティストの一人である。8月初旬から約1カ月間にわたる滞在制作による新作絵画を発表。東島作品を特長付ける観るものを圧倒するような巨大な絵画が、円弧を描くギャラリーA、水辺に面したギャラリーBとの2つの特異な空間に展示されている。
この度制作されたなかで最大の作品《約束としての絵》は、高さ3.8m×幅20m。その姿は、新たな壁構造が立ち上がっていると表現するべきか。タイトルにある「約束」という言葉は、本展のために東島との対談を依頼した水沢勉氏(神奈川県立近代美術館 企画課長、横浜トリエンナーレ2008総合ディレクター)よりいただいたものである。東島は、水沢氏より与えられたこの言葉に導かれるかのように、日の出から日没まで、自らの身体と精神のすべてを絵画制作へと捧げた。空と大地、地を這う水、空気、そして光。森での生活の中で感じたリアリティが、白いギャラリー空間に表出する。静謐で深遠なる色彩。油膜を纏う、その限りなく黒に近い濃紺の画面の前に立つとき、「絵」は風景を眺め見る窓としてではなく、天空から振り下ろされたモノリス、あるいは周囲の森を映し取る水鏡ともなる。やがて幾重にも塗り重ねられた色彩の間を伸びやかに広がる軌跡の存在が、光としての絵画の秘密を明らかにしていく。
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ある日、天から光が放たれ、自らの足で大地に立ち上がり、自らの手で描き残した痕跡。人間が初めての絵を描いた瞬間とは、一体どのようなものであったのか。私たちは、その震えるような太古の記憶を取り戻すために、今もなお、「絵」の中に崇高さを求め続ける。東島がACACで体言した絵画とは、原初の、そして崇高なる「絵画」の力を信じ続ける者へ向けられた未来への約束なのである。ヒューマンスケールを超えようとするかのような大画面は、人々の記憶に風景として留まることを約束する。アーティストは、自由を約束する。表現することの、見ることの、生きることの自由。そしてその自由とは、独りよがりに勝手気ままに振舞うことではなく、自分が接した誰かの気持ちや創造力を開放するもの。優れたアーティストとは、そうした自由を、作品という形を借りて表出させることができる者である。東島は数少ない、そうした一人にほかならない。 |
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《約束としての絵》2008年
20,050mm×3,794mm、キャンバスに油彩、アクリル/木 |
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左:《光を欺く》2008年
4,660×4,225mm
キャンバスに油彩、アクリル
右:《水面の光をずらす》
4,354×7,753mm
キャンバスに油彩、アクリル、スプレーペイント
*作品の右側に立つのは、東島氏 |
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●国際芸術センター青森「アーティスト・イン・レジデンス2008秋の特別展」
東島毅 展「絵〜Picture」
会期:2008年9月13日(土)〜10月13日(月・祝)
会場:国際芸術センター青森
青森市合子沢字山崎152番6/Tel.017-764-5200
[関連事業]アーティスト・トーク(対談)「約束の、絵〜Picture」
パネラー:東島毅×水沢勉(神奈川県立近代美術館 企画課長、横浜トリエンナーレ2008総合ディレクター)
日時:10月4日(土)、14:00〜15:30
会場:創作棟/講義室
*申し込み不要
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[ひぬま ていこ] |
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