artscape
artscape English site
プライバシーステートメント
学芸員レポート
札幌/鎌田享|福島/伊藤匡|青森/日沼禎子大阪/中井康之
「画家」がいる「場所」
福島/福島県立美術館 伊藤匡
上から
・画家がいる「場所」展チラシ
・展示室内の方位記号
・展示室内
 どうしたら現代作家の展覧会に関心をもって見てもらえるかは、各美術館が頭を悩ましていることである。日光東照宮の側にある小杉放菴記念美術館では、「場所」という視点を提示することで観覧者の注意を喚起する展覧会が開かれている。
 この展覧会は、同美術館とゲストキュレーターの東京文化財研究所の田中淳氏による協同作業という点に特徴がある。田中氏は、黒田清輝、萬鉄五郎、木村荘八ら近代の画家たちを、彼らが生活し創作した場所に着目して見直し、近代美術史に新たな可能性を提示した『画家がいる「場所」』の著者である。この展覧会は、著書で提示した方法を、現在活動中の画家を対象として具体化したものともいえる。
 出品作家は菊地武彦、山田昌宏、佐川晃司、中村功の4人。ほぼ同世代(40歳代後半から50歳代後半)であることと平面を描き続けていること以外には、画歴も画風も出身地や現在の制作地にも、あまり共通点はないようにみえる。この四人の作品が一堂に会した時どのように見えるのかという興味がわく。
 展示室は四分され、各作家が十点弱の新作を展示している。各作家の配置が的確で、各作品が出すぎず引き込みすぎず、適度な緊張感を保ちながら並んでいる。照明の当て方がきれいでたいへん見やすい。会場コーディネート担当として名を連ねている東京スタジオの堀谷昭則氏の仕事という。
 チラシの表が実は展示室の図面になっている。展示室の入口の床には地図の方位記号のシールが貼ってあり、場所にこだわる本展のシンボルともなっている。この方位記号シールの真上からは、4人全員の作品が同時に見える仕掛けになっている。
 「場所」とは、第一義的には画家のアトリエということになるが、それだけではなく美術館の場所でもある。「場所」という問いかけによって、現役の作家はそれぞれに異なる受け取り方が出てくるし、観覧者は「場所」という補助線をたどりながら作品を見ることが可能になる。過度に専門的あるいは強引すぎるテーマでくくった展覧会に比べると、「場所」というくくり方は実直で具体性を感じさせるので、受け入れやすいという感想を抱きながら、晩秋の日光を後にした。

会期と内容
●画家がいる「場所」 現代絵画のなかの記憶・風景・身体
会期:2006年11月11日(土)〜12月24日(日)
会場:小杉放菴記念日光美術館 
栃木県日光市山内2388-3 Tel. 0288-50-1200
学芸員レポート
 萬鉄五郎の町岩手県旧東和町で、今年も「街かど美術館 アート@つちざわ」が催された。昨年は花巻市との合併を控えて一回限りのイヴェントとして企画されたが、町の人々の反応が予想以上で、今年も開催することになったようだ。事務局の人たちは、第一回展の記録集(分厚いカタログである)の編集を終える間もなく今年の準備に入ることとなったはずで、さぞ忙しかっただろう。
 今年の出品者は昨年の約1.5倍。会期中のイヴェントも多彩で、アート・イヴェントとしての体裁はかなり整った。案内所で訪ねると見学の人も昨年より多いという。商店街の空き地に設置された作品を見ていると、「これは癒しをテーマにした作品なんですよ」と隣家の主婦が説明してくれる。町の人々の関心も去年より高いようだ。先ずは、関係者の努力と町の人々の熱意に敬意を表したい。
 その上で、気になる点を挙げる。先ず、作品の数は増えたが質の点ではどうだったのか。「去年より数は増えたんだが、重量感のあるのが少ないねえ」と、孫を抱きかかえた地元の男性が語ってくれたが、確かに大作、力作は昨年より少なかった。「重量感」を「見応えのある」と言い換えてもよい。土沢の商店街には、廃業した銭湯や床の抜けかけた事務所などインパクトの強い場所がいくつもあり、作家たちもその魅力にひかれて作品を設置している。だが、場所の放つ強烈な磁力に拮抗するだけの力を感じた作品は、残念ながら多くはなかった。連年開催による準備期間の不足が、作家側と事務局側双方に影響を与えたのではないか。 
 もうひとつ気になったことは、現在のしくみでは見学者の人数が把握できないのではないか。作品の制作や鑑賞とは別次元の問題だが、イベントとしての継続を考えるなら、見学者数や経済効果など数値の把握も必要なことだろう。
 展示範囲の拡大という案もあるようだが、これは一長一短だろう。現在の設置範囲は、二時間程度の散策で大半の作品を見ることができて人間の間尺に合っている。一方、地域の活性化という点からは、範囲の拡大という案も出ることだろう。
 課題も見え始めた今年のアート@つちざわではあるが、体制を整えつつ次回以降も継続してほしいものである。
[いとう きょう]
札幌/鎌田享|福島/伊藤匡|青森/日沼禎子大阪/中井康之
ページTOPartscapeTOP