札幌/吉崎元章
|福島/木戸英行|
東京/増田玲
コモン・スケープ:今日の写真における日常へのまなざし
福島/CCGA現代グラフィックアートセンター 木戸英行
この展覧会の出品作品に共通するのは、まずカラー写真であること、ありふれた日常風景を撮っていること、動きのある被写体やクローズアップはなく、つねに中長距離の一歩引いた視点から撮影した静的なイメージであることなどだ。フィルムのフォーマットもたいていは大判で、一般的な職業写真家が使うリバーサル・フィルムではなく、カラーネガやダイトランスファーと呼ばれる特殊なプリントで得られる独特の発色も特徴と言える。そしてなにより、これらの作品では、徹底的なまで意味や物語が漂白されていることもあげなくてはならない。同じ新興住宅街を撮影したカラー写真でも、かつて藤原新也が撮ったそれとホンマタカシのそれでは、前者が戦後日本が築き上げてきたもののある種のいびつさの象徴という意味が充満していたのに対して、後者はそうした意味をまったく感じさせない点が大きく異なる。
こうした写真のスタイルや手法だけを取り上げれば、じつは、それが必ずしも本展出品作品だけの特徴ではなく、最近の雑誌や広告の写真でもよく見かけるものであることに気付く。そればかりか、少し気の利いたTVコマーシャルなどでも、あきらかに意識したと思われる表現を見かけるほどだ。つまり(これは肯定的な立場から言うのだけれど)時代の流行なのである。そして、この流行のスタイルに源泉があることは、少し年季の入った写真ウォッチャーなら誰でも知っていることである。1970年代のアメリカで、本展の出品作家でもあるウィリアム・エグルストンをはじめ、スティーブン・ショア、ジョエル・スタンフェルドらが先駆者となったニューカラーだ。さらに言えば、日本でもすでに70年代から80年代にかけて、たとえば、多摩ニュータウンを撮った小林のりおの一連の仕事などに代表されるような、ニューカラーの時代精神を反映した作品が生み出されてきた。
本展は、この本家本元のニューカラーの大御所、ウィリアム・エグルストンと、近年のジャパニーズ・ニューカラーの寵児たちを並べて見せるという野心的な試みだ。繰り返しになるが、ホンマや野口の仕事をニューカラーの焼き直しだとか流行だとかと言って揶揄しようというつもりは、ぼくにはまったくない。むしろ、彼らと世代的にも近い一写真ウォッチャーとして、つねづね彼らの作品に共感を寄せてきた。
そのような観客であるぼくが、本展で一番強く印象に残ったことは、メンフィス郊外のきわめてアメリカ的な日常風景を写したエグルストンの作品とジャパニーズ・ニューカラーの作品が、時代や場所は大きく隔たっているにもかかわらず驚くほど似ていることだった。先にも述べたようにスタイルに共通点が多いのだから似るは当然なのだが、それにも増して、アメリカ的風景対日本的風景、アメリカ人の視点対日本人の視点といった差異よりは、時代や場所を超越したある種の普遍性を強く感じるのだ。30年前のアメリカ南部と現代日本の風景にある普遍性である。そして、この普遍性の在処は、展覧会に出品されたほぼすべての作品の舞台となっている「郊外」ということなのだろうと思う(撮影場所が都市だったとしても、写されているのは都市の中の匿名の周縁部だ)。
そういう意味で、ニューカラーというかつての呼称は、本当は「郊外写真」とでも呼ばれるべきだった。そして、今日ニューカラー的な表現が流行を見せているとすれば、それは作り手と受け手の双方に、無意識にせよ、この「郊外」に感応する時代精神が共有されているからだろう。これを書いているぼく自身が郊外に育った。今住んでいる福島県郡山市も、現代にあっては地方というより、むしろ、東京や仙台といった都市との関係において郊外と呼ぶに相応しい気がする。ぼくだけでなく、出品作家たちも会場に足を運んだ観客たちも、今日本に暮らす大多数の人々が郊外の住人なのである。
そんな感想を抱きながら会場を後にすると、仙台の市街地から少しはずれた立地の宮城県美術館周辺や、郡山までの帰路の道すがら、エグルストンだったらきっとカメラを向けたくなるに違いない、郊外の光景がそこかしこにあることに今さらのように気づいた。
会期と内容
●コモン・スケープ:今日の写真における日常へのまなざし
作家:ウィリアム・エグルストン、古屋誠一、ホンマタカシ、野口里佳、ハイナー・シリング、清野賀子、高橋恭司、安村崇
会場:宮城県美術館 仙台市青葉区川内元支倉34-1
会期:2004年1月17日(土)〜3月28日(日)
休館日:月曜日
入場料:一般800円、大学・高校生400円、小・中学生300円
主催:宮城県美術館/河北新報社/財団法人自治総合センター
問合せ先:宮城県美術館 Tel. 022-221-2111
URL:
http://www.pref.miyagi.jp/bijyutu/museum/
[きど ひでゆき]
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