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学芸員レポート
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「版」の誘惑/タイムスケープ もうひとつの時間
Blooming:ブラジル──日本 きみのいるところ
愛知/能勢陽子(豊田市美術館
 この夏は、名古屋市美術館愛知県美術館の二つの美術館で、テーマ性を打ち立てて新たな角度から所蔵品を紹介する展覧会が行なわれている。

「版」の誘惑
「版」の誘惑
 開館20周年を記念した名古屋市美術館の「『版』の誘惑」展では、19世紀から現代までの国内外の版画、ポスター、写真、書籍などが展示されている。山本鼎に始まり、藤本由紀夫に終わる展示の途上には、ジョン・ケージ、赤瀬川原平、中村宏、三岸好太郎、マルク・シャガールといった作家たちの作品が並ぶ。ホセ・グアダルーペ・ポセダや月岡芳年、小林清親らの作品が、同じ壁に互い違いに掛けられた一角もある。「版」としての展開や時間軸にこだわることなく、互いに対話し、また差異を示すように並べられたそれらの作品は、反復、反転、痕跡、あるいは情報伝達といった概念を次々に示しながら、さまざまなヴァリエーションを生み出していく。なかでも、そこに差し挟まれた河原温の作品は、「版」をめぐる新たな解釈を提示していた。《日付絵画》の日付の繰り返し、《I Got Up》シリーズのスタンプで記された起床時間、《百万年−未来》のタイピングされた年号を、「版」という概念で括ることにより、最小限に切り詰めた要素の展開だからこそ、捉えようのない無限の広がりを開示することを伝えていた。

 愛知県美術館では、所蔵品を中心に、メナード美術館のコレクションや個人所蔵家の作品も加え、「時」をテーマにした「タイムスケープ もうひとつの時間」を開催している。「いま」と言ったとき、それはもう過去になり、未来が「いま」になる。時について考えることは、誰にとっても常に不可思議な体験となる。本展は、この時の持つさまざまな側面を、絶妙な章立てでみせていく。「古代憧憬から廃墟へ」では、エドワード・ジョン・ポインターやポール・デルボー、荒木高子らの作品が、過去と現在の間で時を宙吊りにする。また「つかの間、一瞬」では、野田哲也の家族を写した「日記」シリーズが、生の微笑ましい一瞬を写し取る。「時を操作する」のロニ・ホーンの水面を映した写真、そして杉本博司の一段と高く掲げられたヘンリー8世の写真の組み合わせは、なかでも印象的であった。常に移り変わる水面は時間の推移そのものであり、私たちは二度と同じ川に入ることができない。しかし杉本の蝋でできたヘンリー8世の肖像写真は、二重の意味で歴史性を欺き、時を凍結させる。この移り変わる時と凝固した時の対峙は、時に思いを至らすための静謐な場を生み出していた。そして最終章の「響き合う時間」では、キキ・スミスの彫刻と北魏時代の仏像、またルイーズ・ニーヴェルソンの彫刻と江戸時代の笈など、現代美術と用の美が向き合わされることで、近代以降のアートの自立性がわずかに揺さぶられるように感じられた。

 見慣れたはずの所蔵品も、新たなテーマや異質な作品の組み合わせにより、新たな側面を示し始める。こうした展覧会は、所蔵品の眠る可能性を新たに発掘する可能性を秘めている。
キキ・スミスの彫刻と北魏時代の仏像 ルイーズ・ニーヴェルソンと江戸時代の笈
左:キキ・スミスの彫刻と北魏時代の仏像
右:ルイーズ・ニーヴェルソンの作品と江戸時代の笈

●「版」の誘惑
会期:2008年7月5日(土)〜9月28日(日)
会場:名古屋市美術館
名古屋市中区栄2-17-25/Tel.052-212-0001

●タイムスケープ もうひとつの時間
会期:2008年8月8日(金)〜10月5日(日)
会場:愛知県美術館
名古屋市東区東桜1-13-2/Tel.052-971-5511

学芸員レポート
Blooming:ブラジル──日本 きみのいるところ
Blooming
ブラジル──日本 きみのいるところ
 「Blooming:ブラジル──日本きみのいるところ」がオープンした。ブラジルの現代美術展を開催することになったのは、ここ豊田市を含む愛知県が、日本で最も多くのブラジル人が暮らす地域であり、また今年がちょうど移民百周年を迎える日伯交流年であるからだ。しかし理由はそれだけではなく、なにより人生を楽しむことが上手で、おおらかで温かいブラジル人が大好きだからということが大きな原動力になっている。そして、ブラジルにおける貧富差などの社会問題も見え隠れしつつ、会場には海辺の音楽と呼ぶべき心地よい音楽が流れ、全体としてゆったりとした幸せなムードを作り出すことができた。ぜひ足を運んでください。
エルネスト・ネト《ぼくらの霧は神話の中へ》 モニカ・ナドール《ブルーミング》
アナ・マリア・タヴァレス《ヴィクトリア・ヘジア(ナイアのために)》 左上:エルネスト・ネト《ぼくらの霧は神話の中へ》(2008)
右上:モニカ・ナドール《ブルーミング》(2008)
左下:アナ・マリア・タヴァレス《ヴィクトリア・ヘジア(ナイアのために)》(2008)

●「Blooming : ブラジル──日本 きみがいるところ」
会期:2008年7月5日(土)〜9月21日(日)
会場:豊田市美術館
愛知県豊田市小坂本町8-5-1/Tel.0565-34-6610

[のせ ようこ]
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