上段より
・ZERO Project #BII-124/Darwin, Cowra
・On the Day Project 19th February Okinawa
・比叡山高校の生徒による「叡光新聞」の拡大写真
●中ハシ克シゲ「ZEROs 連鎖する記憶」@滋賀県立近代美術館
福岡での「震電プロジェクト」と並行して進められていた、「ゼロプロジェクト」のみに焦点を合わせた個展。比叡山にはかつて特攻専用機「桜花」の発射台が建設されていたという史実に基づき、この展覧会では新作として、桜花にちなんだ作品「OHKA-43b/Hieizan」が出品されている……といっても実はこの作品は、筆者が訪問した際にはまだ存在していなかった。というのも、桜花の作品は、会期中、展覧会場の中で制作されていくからだ。この記事がアップされるころにはちょうど初日から1ヶ月たつことになるが、どの程度進むだろうか、10月24日に1機目が完成したそうです。展覧会は、オーストラリア・カウラの零戦(完成済み)から始まり、続いて琵琶湖上空で撃墜されたという松山飛行士の零戦によるインスタレーション。映像資料を挟んで「On the Day」プロジェクト3点の展示。最後のコーナーが桜花の制作会場となっている。そのため写真の1枚でも貼らない限り会場を出ることは不可能な仕掛けだ(うそです)。
比叡山高校の生徒たちが、かつて学校新聞の記事として「桜花」の発射台について取材し、その当時の桜花隊隊員へのインタビューも試みていたということがわかり、今回中ハシは比叡山高校の生徒たちと共同制作を試みた。まず生徒たちは中ハシの零戦制作と同じ手法で、かつての学校新聞を撮影し、貼り合わせ、巨大な壁新聞として「桜花」の制作会場に展示している。これはそのまま「桜花」と比叡山のつながりを説明するものとなっており、観覧者/参加者はなぜここで「桜花」がテーマとなっているのかについて即座に理解することができる仕掛けであり、この共同作業はなかなかうならされた。中ハシが地元在住ということもあって、地の利とその歴史的文脈を生かした展覧会に仕上がっている。実は私個人的には、「On the Day」の絵画的な完成度にかんして認識を新たにした。かつての西宮市大谷記念美術館での個展でもこの「On the Day」の作品は見ていたのだが、その時はインスタレーション作品と理解していた。しかし壁面3つを使った今回の展示では、まず一瞬、それらの画像の具体性よりも先に、矩形に中に茫洋と広がる抽象的なイメージが目に入る。素材が写真なので、これを巨大な「写真作品」と定義することも可能に思える。フォーマリズム以後の絵画(平面)作品との比較は容易であろう。ここでは詳述しないけれども、「On the Day」は「ゼロプロジェクト」と異なり、中ハシ克シゲがある事件がかつて発生した日に現場に赴き、日の出から日没まで地面などを撮影するというものであり、いわば作者の身振りと視線がそのまま平面上に転写されたものであるといっても過言ではない。なんかポロックみたいですね。尾崎信一郎が図録中の論文でそうした比較検討を行っているが、たしかに戦争のエピソードのみに依拠した作品ではなく、モノとしての作品の形式的強度を保持しているという面ももっと語られていいのではなかろうか。震電プロジェクトでは様々なエピソードを直に聞いてきたので、あえてこれまで言われなかったこと(特に「On the Day」)について書いてみた。しかし、欲を言えば、零戦、これまで結構たくさん作ったから、もう少しほしかったですね。会場規模としてはやむを得ないか。
それからもう1つ。この中ハシ個展、進行形の作品が常に形を変え、最後にフィナーレとして焼却を迎えるという点、アーティスト・イン・レジデンスの要素と展覧会がうまく合成されたものとなっている。だから(大竹展とは別の意味で)何度か足を運ぶ必要があるに違いない。中ハシのブログでは、作家自身が経過をアップしている。しかし大津近辺の地元の方、是非とも参加されたい。卓抜したデザインの図録には、これまでの「ゼロプロジェクト」が詳細に網羅され、テキストも充実している。今後はこのゼロプロジェクトを、過去の「OTOMI」や「Nippon Cha Cha Cha」などの彫刻作品との関連性において検証を進めるべきだろう。