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アートプロジェクトはアートとまちづくりの救世主となるか?
久木元 拓
アートプロジェクトが熱い!?
「速報です。今年度の助成対象者は、○○アートセンター!」
歓声とともに該当の方々と思われる場所から拍手が一斉におこる。次々に発表される助成金対象団体に一喜一憂する人々。これは、とあるアートNPOの方々が集まるイベントのオープニングパーティの一場面である。
 ここ数年、「アートがまちを活性化」「まちづくりにアートを」といったスローガンのもとに、全国各地でアートプロジェクトと称するイベントや運営組織、ムーブメントがおこっており、アートとは異なる文脈の報道などでも耳にすることが増えてきている。
 そもそもアートプロジェクトとはなにか。これまでにもさまざまな視点から多くの言及がなされているが、ここでは主として21世紀以降、アートに関わるイベントや運動体を組織し現在にいたる、アートNPOなどの自治運営組織を中心に、美術館や公共団体も含む「ローカルな環境下でのアート活動」を展開していく一連の活動形態を、“アートプロジェクト”と総称してみることとする。
 まずは、今日展開されているアートプロジェクトについて、その運営主体とミッションを整理し、今日におけるアートプロジェクトを一覧するとともに、これからのアートプロジェクトの可能性について考察をすることとする。

1──運営主体の組織編成
 プロジェクトの運営組織としては、実行委員会形式となるが、その中心はアーティストイニシアティブによるものから、まちづくりに関わる市民団体、NPOとなる例が多い。
 90年代のアートプロジェクトとの相違は、その主体が東京などのほかの地域から来たのではなく、その地域/都市に拠点とする人々であるということである。しかも、そこに実際にはプロデューサー/ディレクター、アーティストやキュレーター、建築家、ギャラリストはもとより、商店主や事業主、会社員、学生に至るさまざまな職種のさまざまな立場の人々が主体としてかかわっている点が特徴的である。
 ただし、公共の美術館や施設などでプロジェクトを実施、管理運営などをともなう場合には、公共団体、自治体が主体となることもある。

2──プロジェクトのミッション
 昨今のアートプロジェクトのミッションには、なんらかのかたちで“まちづくり”といったキーワードが含まれていることが多い。アーティストによる作品の自由な展示発表という純粋な目的性で成り立つプロジェクトは存在しないと言ってよいだろう。
 ただし、アートの表現とまちづくりの意思は常に同じベクトルをむいているわけではけっしてない。多くのアートプロジェクトはそれぞれにバランスをとりながら、両者のあいだのグレーゾーンを行き交っているのが現状である。参加するわれわれはそうした曖昧性を引き受けながら、自分自身にとっての適度なゾーンを模索しつつ、自分なりの意義を見出すことになる。そしてそこで持ち出されるキーワードが“プロセス”であり、“つながり”であり、“継続性”である。

 上記の視点を踏まえ、本年国内各都市において実施展開されている主なアートプロジェクトについて一覧するとともに、主体とミッションをもとにマッピングを試みた(ただし、アートプロジェクトの性格上、各主催団体が提示するミッションの表記には不確定な要素も多いため、あくまでも筆者の判断で配置したものである)。

フェルメールとその時代展
国内アートプロジェクトについての主体/ミッションによるマッピング
筆者作成
主体の性格 プロジェクト 実施年 実施地 実施環境 実施主体 ミッション
アーティスト+地域住民による組織体 アートプログラム青梅 2003年より
毎年
青梅市 旧工場施設、試験場のコンバージョン、高等学校講堂の利用 主催:アートプログラム青梅実行委員会
共催:文化庁、青梅市
地域に根ざした芸術文化の自由で豊かな文化環境の創造
桐生再演 1994年より
毎年
桐生市 旧工場施設、旧商店など 桐生森芳工場運営委員会
後援:桐生市
近代工業の跡地を舞台に行なう美術展の開催
広島アートプロジェクト 2007年より
実施
広島市 旧工場施設、旧銀行施設(被爆建造物) 広島アートプロジェクト実行委員会 現代美術を中心とした文化芸術の振興に関する事業等で文化芸術の振興、国際平和の実現、および共生社会の推進に寄与する
静岡アートドキュメント 2007年より
実施
静岡市 公園、店舗、神社、廃屋(プラネタリウムドーム)など 静岡アートドキュメント実行委員会 静岡に生活する人々とアーティストと学生が コミュニケーションをとりながら、その都市環境を作品化する
キュレーター、コーディネーター+住民による組織体 金沢アートプラットホーム2008
− 自分たちの生きる場所を自分たちでつくるために −
2008年10月4日〜12月7日(3年に1回開催予定) 石川県金沢市 金沢市内19カ所(空ビル、大学構内、街中、美術館など) 金沢21世紀美術館[(財)金沢芸術創造財団] 金沢市に住む一人ひとりが身近な場所で、アーティストと一緒に活動することで、自らの可能性を信じ豊かな生活を作り上げてゆく
カフェ・イン・水戸2008 2002年
2004年に次ぎ3回目
茨城県水戸市 水戸中心市街地(店舗や空き店舗スペースなど) 第23回国民文化祭の一環
(企画運営:財団法人水戸市芸術振興財団+MeToo推進室)
計26名の作家が水戸駅から水戸芸術館までの国道50号を中心に、店舗や空き店舗スペースで展示やイベント、ワークショップを行ない、会期をとおして街中ににぎわいを創出する
地域に関係するキュレーター、コーディネーター+住民による組織体 多摩川アートラインプロジェクト 2008年11月1日〜9日 東京都大田区 東急多摩川線全7駅(多摩川、沼部、鵜の木、下丸子、武蔵新田、矢口渡、蒲田)、新田神社、田園調布せせらぎ公園等 多摩川アートラインプロジェクト実行委員会(アートディレクター・清水敏男氏)、NPO法人大田まちづくり芸術支援協会(asca) 大田区・多摩川下流域エリアの鉄道(アートライン)・駅(アートステーション)・街(アートタウン)を舞台に、市民と企業で取り組む、現代アートによる街づくりの活動。2008年のテーマは、「グローバル⇔ローカル」
三河・佐久島アートプラン21 2001年より実施 愛知県幡豆郡一色町 愛知県幡豆郡一色町佐久島内各所 主催:幡豆郡一色町
共催:一色町大字佐久島・島を美しくつくる会
企画・制作:有限会社オフィス・マッチング・モウル
高齢化と過疎化の波が押し寄せる三河湾最大の島、愛知県幡豆郡一色町佐久島。このプロジェクトでは、島の持つ自然や伝統とアートとの出会いによって、佐久島の地域活性化をめざす
取手アートプロジェクト 1999年より毎年実施 茨城県取手市 取手市内各所 取手アートプロジェクト実行委員会(市民+東京芸大先端芸術表現科+取手市など)
若いアーティストたちの創作発表活動を支援し、市民に広く芸術とふれあう機会を提供することで、取手が文化都市として発展していくことをめざす
別府現代芸術フェスティバル 2009年4月開催 大分県別府市 別府市内中心市街地のリノベーション空間
NPO法人BEPPU PROJECT(2004年発足)
別府という場所とアートが出会う多様な事業として、一般市民に対する現代美術を中心とした文化、芸術の振興に関する事業を行ない、いままでとは違うより豊かな市民社会の実現を図る
地域のコーディネーター+住民による組織体
wanakio2008 まちの中のアート展 2008年11月 沖縄県那覇市 商店街(那覇市栄町市場内等)、小学校、ダム周辺等 ワナキオ実行委員会(運営主体:NPO法人前島アートセンター)
アーティストがさまざまな分野と連携し活動することにより、複雑な現代社会に対応できる創造活動を模索しながら現代文化の基礎づくりを試みる
淡路島アートフェスティバル 2004年より実施 兵庫県淡路島 淡路島内各所(日の出亭・沼島など) 主催:淡路島アートセンター
協力:あるこっこ、リゾレッタ 洲本市立州浜中学校美術部
自然豊かな淡路島のフィールドをフルに生かし、アートの垣根を広げ、誰もが関われるアートの祭りを展開
はっぴい・はっぱ・プロジェクト 2004年より実施 宮城県仙台市 仙台の卸町、東北大学植物園、青葉通り、定禅寺通り、一番町四丁目商店街など NPO法人はっぴい・はっぱ・プロジェクト アートを介して人を繋いでいこうと2004年に発足。賛同した普通の市民が活動しています。アートの力で「場」に隠されている価値や魅力を掘り起こしていく
ながのアートプロジェクト 2004年より実施 長野県長野市 長野市立櫻ヶ岡中学校校内 長野市立櫻ヶ岡中学校 中平千尋(Nプロジェクト実行委員会委員長) 生徒がキッズ学芸員となって美術作家とコラボレーションし、新しいアートのかたちを生み出すように、美術教育を通して、学校をステキなアート空間へ一変させる活動を進める
国内におけるアートプロジェクト実施事例
引用出典=各WEBサイトより筆者作成
アートプロジェクトを評価するのは誰か
 私たち市民が街の一人として、日々の生活を続けていくための原動力とはなにか。村祭りはとうにすたれ、シャッター街のシャッターも錆びつき、残った商店街の福引の商品もマンネリ化した昨今の街の諸相。ただ実際のところ、都市生活者のほとんどは隣の部屋のことなど関心を示す必要もないマンション社会に生活基盤を置いているのが現状であり、パッケージ化されたさまざまな原動力生成装置を消費しながら日々を過ごすような、言わば社会に飼いならされた状態が私たちの日常である。

 かつてComandNは秋葉原でスキマプロジェクトというアートプロジェクトを行なったが、そもそも、都市/地域には隙間がたくさんある。それは文字通りのビルの隙間にとどまらず、デッドスペースとしての空き家、空き室、空き地であり、さらに今日的な視点から言えばそこに住む人々の心の隙間にも言及しておきたい。もはや現代において美術館のホワイトキューブの洗礼を受けることなく生まれるアートとアートらしきものが向かうのは、そうした都市住民の無意識の中に潜むVOIDとしての隙間である。
 そして今日、日本各地の地域/都市の人々の隙間にアートという名の緩衝材がするりと入り込みはじめ、いつしかまちづくりとアートは親和性を持ちはじめ、アートによるまちづくりという表現がさまざまな地域で語られ実践されるに至っている。
 こうした現代の“アート”たちが、21世紀以降、作品ではなく、プロジェクトという新たな飛び道具としての言葉を獲得し、社会システムに組み込まれあるいは社会システムそのものを創作しはじめていると言えるではないだろうか。

 今日におけるアートプロジェクトを語るときに注意すべきは、その評価の視点である。もちろん、アートという限りは“アート”の立場からかかわり、評価をするのは必須である。しかしその立場が、じつは危うい。今日のアーティストによる表現は、いったんホワイトキューブの外に出た時点で、20世紀のアートのロジックから解き放たれ自由になるとともに、見世物、ゲーム、大会、そしてディズニーランドなどのアミューズメントといった世間のさまざまなエンターテイメントのひとつとして政治的、経済的、文化的視野から評価を受けていくことが明確になっていると言えよう。極端に言えば、世界的なキュレーターやギャラリスト、美術評論家などの評価とは異なる市民やボランティア、来場者はもちろん、世間という名の無責任な一般大衆、ジャーナリズムからの評価がプロジェクト自体の成否を左右することも視野に入れる必要がある。
 そしてこの問題は時を経てさらに進化し、上記に示したようなアートとしての評価とそれ以外の評価が明確に区別しうるかどうかという根本的な問題を改めて呼び起こすこととなっている。
 本来、アートは個人の意識の発露によるエネルギーの表出であり、アーティストの表現とそれに対峙する鑑賞者とのあいだに生じる、誰も予想だにしないさまざまなコミュニケーションとしての覚醒、誘惑、陶酔、発見、驚愕、癒し、嫌悪、好意、快楽などなどの発生の中にアートが存在するものと筆者は考えている。そのような個人の意識の寄せ集めとして、社会を捉えていくことで、辛うじてアートの生存権が社会に保証されているという解釈も成り立つと言えよう。
 定義したように誰も予想し得ないさまざまなコミュニケーションの場の生成こそがアートの表出だとすれば、まさに前述のようなアートプロジェクトに関するさまざまな評価すべてがアートの表出ととらえることも可能となる。アートの評価の純粋的絶対性を担保しながらも、大衆的相対性に関わる評価をも受け入れていく寛容性こそが、今日のアートプロジェクトには必要となってきているのである。
 少なくとも明確に言えることは、アートプロジェクトと銘打つ限り、それは作品である以前にプロジェクトだということである。プロジェクトにはなんらかのミッションがあり、そのミッションを共有し、そのプロセスをともに経ていくプロジェクトメンバーが存在する。そして実施展開にあたっては、プロジェクトマネージメントによる資金確保と運営、人材の確保と運用、広報、マーケティング戦略に基づくプロセス検証など、メンバーと情報を共有し互いに承認しあいながら、表出する課題には都度対処し進行していくものである。当然ながらこうしたすべてのプロセスとアウトプットを合わせた総合的な視点から評価をせざるを得ない。
 このように、今日のプロジェクトとしてのアートは、新たな評価の土壌にさらされながらも絶対的文化価値を放ち続けなければならない環境の中で、より存在のタフさが求められているのである。
左:丸山純子《空中花街道》2008
金沢アートプラットホーム2008
写真提供=金沢21世紀美術館
右:淺井裕介
「カフェ・イン・水戸2008」水戸市街地での展示風景
撮影=金田幸三
写真提供=水戸芸術館現代美術センター
左:堂本右美《記憶の中で》2008、沼部駅
Photo by Shigeo Anzai
提供=多摩川アートラインプロジェクト・アートラインウィーク2008
右:奥健祐+鈴木雄介《井野団地足湯プロジェクト》
取手アートプロジェクト2008
撮影=齋藤剛
[くきもとたく・都市文化政策]
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