もともとの意味は物語(story)、物語風(説話体)の文学作品。美術界では、「物語的」な物、フェミニスト・アーティストたちが採用した手法の呼称として多く用いた。「ナラティヴ(物語的)・アート」は、経過する時間の中で起こった出来事を描く表現方法である。そしてすでに起こってしまった場面も、あるいはこれからまさに起ころうとしている場面も、すべてひとつの画面に凝縮されていることが多い。
19世紀後半、モダニズムの画家たちによって徹底的に排除され、物語は画家や彫刻家ではなく小説家にという考え方から、軽視されていたが、1960年代に入ると、抽象美術の隆盛、ナラティヴをタブー視するモダニストが依然支配的な状況の中からも、物語を描くアーティストが続々と現われてきた。この時代に出現した新しい動向、ポップ・アート、ニューレアリズムの絵画や彫刻、ヌーヴォー・レアリスムなどはすべてアーティストの意図の有無にかかわらず、物語の要素を備えた具象的(フィギュラティヴ)なイメージを持っている。
物語の視覚化で最も一般的な表現手段は絵画で、次にパフォーマンス、インスタレーション、ヴィデオ・アートが続く。
(中島律子)
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