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「ニブロール」「コンドルズ」
毛利義嗣[高松市歴史資料館] |
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●ニブロール「駐車禁止」 今回はダンスです。 ニブロールの公演、初めて見てきました。ニブロール、というのはむかーし流行ったイケないお薬の名前だそうです。で、何でしょう、とても暴力的で性的です。というより「的」の抜けた性とか暴力そのまんまが突発的に現われます。もちろん舞台でのことなのでフィクションにはちがいないのですが、それがリアルです、つまり抜き身です。たとえば冒頭のシーン、小柄な女性に男性が近づいて両腕でヨイショと抱え上げるのですが、たったそれだけの動作にまるで犯罪行為を見ているようなヤバさを感じてしまいます。性的な舞台とか映画とか小説とかたくさん世の中にありますが、たいていはお約束の中のお楽しみといったところで、本当に性な感じがするものはあまりない、というかそん 暴力、については、ハリセンみたいなので人を叩いたり、素手で叩いたり、倒れてる人を蹴ったりとか、こういうシーンがまた本当に痛い。犯罪映画やスプラッタ映画の暴力とは質がちがいます。確か北野武監督の「3−4×10月」で、ガダルカナル・タカ演じるスナックのマスターが酔っ払った女性客の顔をいきなり灰皿で殴る、というポカーンな場面があったと思いますが、あの発作加減にやや似てるでしょうか。 あと、とにかくよく走ります。人が走っている姿というのはただただ感動的です。鍛え上げられたスポーツ選手が走るのもそれはそれで感心はしますが、そうでなく、普通の人が何のためか知らないけれど駆け出す姿というのは体に直接うったえる緊張感があります。そしてちょっと怖い。自分がいま生きていることとか、いずれそれが止まることを思い出すせいかもしれません。以前、珍しいキノコ舞踊団の公演でダンサーの伊藤千枝さんが軽く走り出した瞬間に戦慄を覚えたことがありましたが、今回のニブロールの舞台でも同様のヒリツキを何回か感じました。 暴力とか性と生とか、見てない人にとってはどうも重くて前衛な雰囲気を想像してしまうかもしれませんが、実際はそんなオドロオドロなものではなくて、情緒とかお話を持続させない、乾燥した舞台だと思います。無機的、とか評されることもあるようですが、むしろ 清潔 ということばをあてたいです。ワイドショーの対岸にあるような清潔なパフォーマンス。 構成としては、ダンスのような動き、ダンスのようでない動き、セリフ、プロジェクターなどを使った映像、音楽、歌(途中、上から降りてきたブランコに乗った女性が歌う子守歌のような鎮魂歌のような妙に達観した歌は、脳ミソにささります。ただし歌詞は聞き取れず、残念)などを組み合わせたものでしたが、それぞれが密に結びついているというよりも、適度にかかわり合いながら並行して進んでいる、という感じです。動きと映像の組み合わせとか、いちおうリーダーはいるものの参加者が基本的に同格で舞台を作っていくというやり方など、ダムタイプを思い起こさせます、ていうかポストダムタイプとかいってる人もいるようです。で、無理して比べてみるというと、ニブロールはもっと「メッセージ」が少ない、もっと「ダンス」である、同時にもっと「ダンス」から離れようとしている、というところでしょうか。ダムタイプというのは、「ダンス」する肉体とは正面からは向き合ってないと思います。 公演後、ニブロールのメンバーと、この日のもうひとつの舞台を行なった舞踏舎天鶏(今回の「うさぎのダンスは新作初演。昨年は高松市美術館で「女中たち」を公演してもらったのですが、さすがに、だてに30年やってるわけじゃない底力をあらためて感じます)の鳥居えびすさんによるトークがありました。司会の人は、二つのカンパニーを対照的に見てたようですが、確かに動と静とかそういう側面もあるんでしょうが、むしろ公演を見ながら思っていたのは、意外なほどに近いものであるなあということでした。それはいわゆる「ダンス」との距離です。ダンスを否定するわけじゃない、が、はるか遠くにまで広げようとしている、その方法はそれぞれ異なっていても。 昨年でしたか一昨年でしたかフォーサイスの公演を見たとき、ダンサーたちのまあ見事な身体的スキルに驚き、練り上げられた演出に感心もしたわけですが、一方で、それがなにか? な疑いを持ったのも確かです。人の体は飛ぶようにはできていない、クルクルと上手に回り続けることも難しい、その原則にあらがって「かのように」見せることではなく、人の体ができること、してしまうことを深く肯定すること、それをくり返すこと。速く。そうした人の体たちが互いに接触するときの危険と高揚。ニブロールがやろうとしているのは、そんな感覚をどうにか伝えようとする気の遠くなるような作業なのかなあと、思いました。 「駐車禁止」というタイトルを見たとき、「禁止」の方に重点がかかっているのかとはじめ思ってたんですが、コメントを見ると、逆に路上駐車を望んでいるということなんですね。それを知ったとき、チョト泣けました。 ●コンドルズ――四国突入第一弾高松スペシャル・ミュージアム・ライブ「大航海時代」
さて、89年からどうにか続けてきた高松市美術館エントランスホールでのダンス&パフォーマンス・ライブのシリーズですが、どうやら今回をもって打ち止めということのようです。最後の舞台を、満員の客席からコンドルズへの圧倒的なカーテンコールで飾れたことは、正直うれしかったし、感慨深いものがありましたねえ。まあ財政難というのが直接的な理由ではあるようですが、不景気だとか有事だとかいうと優先的に取り止めの対象になるのが、こういったパフォーマンスとかダンス系の催しなのはなぜだろうなぜかしら? といいつつ、一方でまだ箱モノとか作っているわけです行政は、今どき。箱ひとつ作る建設費「だけ」で、こういった催しを1000年分くらいできるんですけどね! これで、高松市美術館、事実上、ほぼ常設展と巡回展のみの美術館になりそうです。
[もうり よしつぐ] |
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