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SOLO EXHIBITIONS 2001/吉野辰海展/角孝政「くまむし」
川浪千鶴[福岡県立美術館] |
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●SOLO EXHIBITIONS 2001 去年のちょうど今ごろ、このおすすめ情報で紹介した「共同アトリエ・3号倉庫」が、博多湾の倉庫街にオープンして1年が経った。 3号倉庫がどういうスペースか、かいつまんで説明すると、福岡在住の篤志家の支援により、20代の若手、新人アーティストを対象に、無償で提供されているアトリエで、広い倉庫は二層に仕切られ、展示スペースやオフィス以外に、現在1期生4人それぞれのブースが整備されている。ディレクター役を買って出ている風倉匠さんが選考した1期生は、1年目の更新を無事パスしたばかり。最長で3年間ここを利用することができる。
以前私がコラムを書たときもそうだが、3号倉庫に関するこの1年の記事は、見返りを一切求めない篤志家の思いや、ボランティア運営による共同アトリエの立ち上げ、そして実験映画の上映なども行える、そのユニークな空間性に関するものが中心で、いわば「箱」への期待が中心だったといえる。しかし、いまやっと個々の作家達の活動を通じて評価されるときを迎えた。2階スペースを全部使った、今回の連続個展がオープン当初からの課題であったことは確かだが、キャリアの差は多少あるにせよ、自分の表現方法を模索している最中の若手作家、彼らの新たな「スタート」地点を連続して見ることができたのは興味深かった。以下駆け足の鑑賞を思い出して、第一印象を書き出してみると…。 一番年長の成田さんの作品は一見絵画的だが、平面や立体といった区別よりも「表面」を意識しているという印象を受けた。「色の間合い」や「空間の表裏」といった京都の画家孫雅由さんの作品コンセプトがふと思い浮かんだが、孫さんの明哲な「手の思想」に比べると、素材や表現が多彩な分作家の迷いが感じられる。
河口さんは、自分の姿や自宅のカーテンに、植物が生い茂る庭や海などの写真をパソコンでコラージュした作品を提示。揺らぐカーテンごしに一瞬見える風景は、日常から垣間見れる永遠か。そこが私たちの立ち入りが拒否された場所なのか、それとも約束された場所なのかはわからないが、ついつい物語を紡いでしまう。 高田さんのは、赤い糸でつくった大きな作品と、赤い布でつくった小さな作品の組み合わせ。目が慣れないうちは床の小さな人間たちにはほとんど気がつかず、踏んでしまいそうになった。赤という色彩や糸・布といった素材が与える先入観をすっかり振り払うことは無理だが、空間の深度と時間の経過を意識させる展示は美しい。 安部さんの作品は、テイッシュなどを貼り合せてつくった巨大な碗状のスピーカーから、外で採取した風の音が、再生音とライヴ双方同時に流れてくる。地に足をつけた構築と、浮遊感や空気感や気配への関心。その狭間のあいまいなスタンスが、もしかしたら彼の持ち味になるかも。
来年の課題について、テーマを設定したグループ展の開催を4人と話し合ったと、ディレクターの風倉さんは語ってくれた。彼らの作品には、埠頭という土地柄や、自由な制作時間と広いスペース、同期の仲間達との出会い、アトリエの共同運営など、新しい環境への意外なくらい素直な反応が大なり小なり窺えたが、最も大きな影響は、実は時折大分から現われる、飄々としたこの稀代のアーティストの存在と言えるかもしれない。
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