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HIGH TIDE ラディカルな意思の現れ
吉崎元章[札幌・芸術の森美術館] |
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●HIGH TIDE ラディカルな意思の現れ 北海道在住の13人の作家が北海道立近代美術館の特別展示室を借りて開催した現代美術の展覧会。最近再び活発になってきたグループ展のひとつであるが、他と最も違うのは、展覧会を自分たちの単なる作品発表の場とするだけではなく、観覧者がいかに作品と深く接することができるか、コミュニケーションを図ることができるかということを強く指向していることである。そのため、美術館学芸員や美術評論家、ギャラリストに協力を依頼。その一員として僕も加わったが、展覧会のノウハウを提供するだけではなく、解説執筆や作品解説カードの作成などを手伝った。 いくつかの新しい試みのなかでも最もおもしろいと思っていたのは、会場内で作家の小品をオークションにかけようとするプランであったが、美術館側の承諾を得られず実現できなかったのはとても残念である。観覧者が気に入った作品の価格を紙に書いて投函し、最終日にそのなかから落札者を選び売却しようとするものであった。見るだけのアートから、所有を前提として値踏みをする対象とすることによって、現代美術に対するちがったアプローチを生み出そうとする試みであったのだが、展示室内で販売行為をすることに対しての調整が十分になされなかったことが要因であった。 出品作品は力作がそろい、なかなかおもしろい展覧会になっている。すべては紹介できないが、そのなかからいくつか。
伊藤隆介のブースでは、飛行機が乱気流のなかを飛行するモノクロの映像が大写しされている。時節柄、ニューヨークでのあの事件をつい連想してしまうが、それは会場内に置かれた小さな飛行機のミニチュアと背景の雲の写真がモーターで動くチープな仕掛けをカメラで映しているというもの。日頃テレビの映像を鵜呑みにしている我々に心地いいパンチを食らわせ、リアルの意味を考えさせている。
●学芸員レポート 記録破りの雪が12月10日から12日にかけて札幌を襲った。一日で56センチというのは12月では観測史上最高なのだそうだ。雪に強いはずの交通機関も運休や渋滞でズタズタ。しかし、こんな日にもちゃんと美術館に来てくれる人がいる。過去の例を見ても、どんなに吹雪いた日でも不思議と必ず来館者がある。どうしてもその日しか都合がつかないのか、雪が降ると苦労してでも美術作品が見たくなるという奇特な方がいらっしゃるか、どちらにしてもとてもうれしいことである。 そんな天候のなか、札幌の南のはずれにある芸術の森美術館から、はるか北のはずれにある北海道教育大学札幌校まで出かけていった。来年夏に帯広で開かれる国際現代アート展「デメーテル」のプレレクチャーとして、出品作家のひとり川俣正が講演とするというからである。デザインと彫刻との合同授業を一般にも公開したというこの催しに学生を中心に多くの人が集まった。北海道出身の川俣は、1983年に札幌で行なったテトラハウスのプロジェクトや、最近の椅子のプロジェクトを中心にスライドやビデオを織り交ぜながら自作を語った。彼の芸術観とともに、どんな学生たちの質問にも示唆に富んだ回答をする川俣には感心した。 ところで、この「デメーテル」というものが、なかなかおもしろそうである。川俣とともに来札したディレクターの芹沢高志の話に、大いに期待がふくらんだ。北海道では初めての大規模な国際現代アート展であるというだけではなく、その試み自体も興味がそそられる。比較していいものかどうかは分からないが、先頃終了した「横浜トリエンナーレ」の出品作家が百人以上であったのに対して、デメーテルではわずか10組。その顔ぶれは、オノ・ヨーコ、カサグランデ&リンターラ、川俣正、金守子、蔡國強、シネ・ノマド、岩井成昭、インゴ・ギュンター、ウォルフガング・ヴィンター&ベルトルト・ホルベルト、中村政人+岸健太+田中陽明。そして、会場もユニークで、商品見本市会場ではなく、こちらは、なんと競馬場。夏場は使われていない競馬場のトラックと馬舎に作品を展示するらしい。40ヘクタールもの敷地を舞台に、この場のもつ意味をどのようにとらえて、10組のアーティストがどのような作品を展開するのか。来年夏は、北海道・帯広が現代アートの注目を集めることだろう。 くわしくは、ホームページを。http://www.demeter.jp [よしざき もとあき] |
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