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北九州市立美術館 福岡市美術館 福・北美術往来 |
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福岡で現代美術にかかわる同業者としての関心はもちろん、半数以上の作家と仕事をともにした経験もあるので、私のなかにかなり応援団的な気持ちが入っていることは否めない。 とはいえ、こうした私の作家本位の関心も、あながち展覧会の意図と外れているわけではないようだ。同展の趣旨は「文化も歴史も、街の成り立ちも異なる、意外に離れた福・北両市の間に美術の力で、交換/交歓の場(=往来)を創造すること」とあり、観客の交換(両市の会場をむすぶ無料シャトルバスもある)、美術家同士の交歓、美術家と観客・観客と作品との間の交歓などが目標とされている。「交換/交歓」というテーマや、ここ10年で活躍したフリーの立場の若手作家という選考基準(「若い」とは年齢というより、美術家としてのキャリアがあまり長くないことを意味するらしい)はあるものの、会場に立ってみると実際のところ、こうしたテーマや選考基準はほとんど気にならない。「交換/交歓」はテーマというより祭典のキャッチといった感じで、現代美術の一面を提示するテーマ展という性格は限りなく薄い。しかし、年齢も素材も手法もかなり異なった作家や作品群なのだが、ありのままの世界での寡黙な冒険や静かな自分中毒、とでもいったらいいような、微妙なテイストの共通性は、いろいろなことを考えさせる。 北九州市立美術館では、「7th 北九州ビエンナーレ ART FOR SALE 」展が同時開催されており、展示室は展覧会ごとに区分されているものの、福・北展の作品が館内全体に散りばめられているせいもあって、ぐるぐるまわり続けると、次第にどっちの展覧会の作品なのかわからなくなってくる。北九州ビエンナーレは明確なテーマ性が特徴のシリーズ企画で、今回の「ART FOR SALE:アートと経済の恋愛学」展は、消費社会のシステムの中で生きるアーティストや社会システムとアートの関係を見つめ直すという趣旨を掲げているが、福・北展の「ありのままの世界観」は、ビエンナーレ作品からもかなり感じられた。テーマの核心にもっとも添うたのは「美術・地域通貨」などの作品や理論的な著書で知られる白川昌生で、そのため彼の作品がどこか異質に感じられたのは事実。 ホワイトキューブとしての空間の美しさは北九州市立美術館のほうが数段上だが 福岡市美術館の展示は、作家個々のスペースが広く確保されており、大作もかなり見やすい。北九州市立美術館が賑やかな祝祭空間だったことに比べると、福岡市美術館の福・北展は一転、静かな複合個展の印象を受けた。単純に2館の空間の違いからそうなったのかもしれないが、それは「見るモノから話すコト」に関心を持つ花田学芸員(北九州立美術館)と、作家のアイデンティティと作品の関係に注目している山口学芸員(福岡美術館)、2人の担当学芸員の美術館や展覧会の可能性を模索する方向性の違いを反映しているようにも思えた。
●学芸員レポート この冬の福岡は寒い。念のためにいえば、福岡は九州でも日本海側の気候エリアに入るので、雪が降ることもあるし、海からの北風はすごく冷たい。「福・北展」では展示作業のために多くの作家たちがこの寒さのなか、クリスマスも忘年会も年末年始のお休みも返上した、2年越しの突貫作業を行ったらしい。 集客があまり望めない現代美術展が、もともと観客の集まりにくい冬場や年度末に開催されることはままあることだが、体力勝負のこうした企画こそ作家のためにも、鑑賞者のためにも、ぜひ気候のいい頃にやってもらいたいものだ。 「福・北展」の福岡市美術館バージョンで、宮川敬一+イェスパー・アルヴァーが行っている《大濠ハイライト・ツアー》は、美術館よこの大濠公園を半周する小旅行を、ひとりひとりに手渡されたCDプレイヤーから流れる音声がガイドしていくれるというもの。北九州市在住の宮川さんから展覧会前に、自分ほど大濠公園についてくわしく勉強した作家はいないという自負を聞いていたが、なるほどガイドの内容は、美術館の屋外彫刻はもちろん、ベンチの材質や寄贈の由来、公園で40年店を開いている老舗の休憩所のおばちゃん紹介などなど、歴史あり、こぼれ話ありと、意外性もあり多岐にわたっていた。 これはなかなかおもしろいと思い始めた頃、あまりの寒さにプレイヤーを操作する手も感覚がなくなり、60分に設定された小旅行は結果10数分で ギブアップし、美術館内に逃げ帰った次第。おすすめ展覧会レポートでも、「福・北展」の屋外作品は同じ理由からゆっくり見ていないことを白状します。それぞれのツボは必ず再見ということでご容赦を。 [かわなみ ちづる] |
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