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兵庫県立美術館「芸術の館」 未来予想図 私の人生☆劇場

木ノ下智恵子[神戸アートビレッジセンター]

 
神戸/木ノ下智恵子
福岡/川浪千鶴
高松/毛利義嗣
倉敷/柳沢秀行
福島/木戸英行
札幌/吉崎元章
東京/南 雄介

未来予想図 私の人生☆劇場
安井曽太郎と孫
モネの睡蓮
上: 堀尾貞治の『あたりまえのこと(位置をかえれば)』/下:しばたゆり『わたしのモノ、わたしとモノ』
 2002年4月、震災からの文化の復興のシンボルとして開館した兵庫県立美術館「芸術の館」は、建築家/安藤忠雄、総事業費300億円、西日本最大の延べ床面積、阪神淡路大震災級の地震がおきてもコップの水もこぼれない免震機能、7.2Mの天井高の展示室etc……これぞ正に【美の拝殿】と呼ぶにふさわしい面構えで誕生した。いささかデフレ時代に逆行した趣は否めない新・美術館は「美術のための建築か建築のための美術館か。」コトが大がかりなだけに様々な物議はあるが、既にそこにある事実は変えようがなく美術館としての評価は中身=使い方で変化するだろう。
 日本における120年の美術館史を作品や資料など約250点でたどる『美術館の夢』で幕を開けて以来、『POWER OF ART』、『ゴッホ展』に続き、開館記念展の一貫として開催された『未来予想図 私の人生☆劇場』は、関西を拠点に幅広い活躍を続ける10名の美術家/榎木忠、かなもりゆうこ、児玉靖枝、しばたゆり、内藤絹子、黄鋭、堀尾貞治、松井智惠、森村泰昌、やなぎみわの最新作あるいはバージョンアップされた作品によって構成されていた。
 巨大な空間に挑むかのように仲間と共に日々作品を増殖させ、展示室だけではなく建物の外壁やガラス窓など美術館のあちこちに点在する堀尾貞治の『あたりまえのこと(位置をかえれば)』。美術館のほこりで刷った『Dust PRINTS』、参加者の大切なモノを両手にのせて撮影する『わたしのモノ、わたしとモノ』を含む複数のプロジェクトで構成されたしばたゆりの『My object;I and object.2002』。林檎や水玉模様の光や装飾に彩られた空間に映し出されるダンスする少女の姿など、ここ数年来制作をともにしてきた少女や身近な仲間達と過ごした時間と関係性によって独自の美を創出している、かなもりゆうこの『フルーツ・ドロップ』。ミラーボールや怪しげな映像と共にかつて作品に登場したおびただしい数のアクセサリーや衣装や装置といった作者偏愛の品々が陳列された展示ケースに囲まれたインスタレーションによって博覧会場と化した森村泰昌の『劇場としての「私」』。無機質で権威的な空間の支配に対して「L.S.D.F.=Life Seif Defence Force」と刻まれた鉄製の膨大な銃で武装する榎木忠の『CORRIDOR-AK-47』。この他、それぞれの出展作家が同時代を生きる表現者としての指針を思考と感覚の産物=美術作品によって明らかにしていた。また、本展では各作家が会期中にレクチャー、公開制作、パフォーマンスなど作品展示とは違うアプローチで一芸?を披露することを義務づけられていた。(かどうかは定かではないが1人1ネタが関連イベントとして用意されていたのは事実である。)
 現代人として我々と同様に日常生活を営みながら人生を創造行為に賭けた10人の挑戦者達。俗世とはかけ離れた異人でもなく、美術家としての特権意識をふりかがすこともなく、自身を掘り下げながら社会とコミュットしながらごく普通に我々に語りかける。「中身のない入れ物は無用の長物であり中身によってその存在は意義を成す。」という名セリフを決め、それぞれが場や観客などといった様々な要素と対峙して美術館の在り方を提示していた。一方、美術館に携わるあらゆる人々は、常に実験的な視野をもって美の創造者と接しながら表現の可能性を追求していくと共に、受け手にとって多種多様な体験の機会を儲けながら双方向型の観客創造を目指すために、時には口当たりの良い表現ばかりではなく、憮然とした神経に障る自身の価値観を揺るがされるかも知れない。
 メディアの発達に伴って希薄になる人との直接的なコミュニケーションの真価が芸術体験にあるように、ニューメディアではなく枠組みを越えた人のチャレンジ精神にこそ美術館の未来があるのだろう。本展を通じて「10人の人生劇場」を目の当たりにして、今を生きる同時代の表現者や受信者と共にこれより未来の知的財産を築いていく美術館の有意性について確信することができた。未来はきっと明るい!?
かなもりゆうこ『フルーツ・ドロップ』 榎忠『CORRIDOR-AK-47』 森村泰昌『劇場としての「私」』
左:かなもりゆうこ『フルーツ・ドロップ』/中:榎木忠『CORRIDOR-AK-47』/右:森村泰昌『劇場としての「私」』
(いずれも兵庫県立近代美術館での展示風景)


学芸員レポート
 新年、明けましておめでとうございます。(この原稿がアップされる頃もこの言葉が通じる時期と願って)
 年明け早々、私は企画の実施が目白押しで休みボケしている場合じゃありません。
KAVC開館、7年目にして初めてまちに根ざしたアートプロジェクト「新開地アートストリート」を実施します。これまでの学芸レポートでもお伝えしてきたネタですが、商店街の方々を中心とした日常にゆるやかなアートマジックを仕掛けていきたいと思っております。
その意気込み?とご案内をこの場を借りて……。

 新開地アートストリート(SAS)「新開地アートブックプロジェクト 〜まちの地質調査〜」
 1900年初頭、湊川を埋め立てた土地に活動写真館や大衆演劇場が立ち並び「新開地」が誕生しました。故・淀川長治氏が幼少時代に通ったといわれる「聚楽館」、まちのシンボルとしてそびえ立つ新開地タワー、アイススケート場や見せ物小屋など、モダンでハイカラな大衆文化で賑わう新開地は神戸文化の中心地でした。独自の歴史と文化が蓄積されているこのまちは、戦災や震災など様々な苦難を乗り越えて新たに再生しようとしています。
 『新開地アートストリート(SAS)』は、お祭りや音楽イベントを繰り広げる商店街、様々な試みでまちの活性化に勤しむ「まちづくりNPO」、新たなアートの情報発信地「神戸アートビレッジセンター」などが一体となって展開する、人・まち・アートが出会い共生する魅力的なまちづくりの実験です。
このまちに根ざしたアートプロジェクトでは、美術家/井上明彦をメインナビゲーターに迎え、見えないモノとして埋もれているまちの魅力の地層を掘り起こす『新開地アートブックプロジェクト〜まちの地質調査〜』を開催します。
 まちの歴史や資産を築いてきた「人・モノ・コト」をクローズアップした多種多様なワークショップやフィールドワークを実施し、アーティストや研究者、まちの大人や子供、その他の地域の人々の五感による地質調査によって、まちの魅力をあらゆる角度から検証していきます。
そして最終的にはそれらの成果を一冊のアートブック『新開地ニューガイド』(仮題)に編集すると共に、ドキュメント展として再構成します。
 景観やモノではなく人々の意識に変化をもたらす緩やかな効能が期待される、まちの地質調査。まちに縁する様々な人々によって創り上げられた新たな財産……「温故創新/古きをたずねて新しきを創る」アートプロジェクトの新たな試みが始まります。

会期と内容
●「新開地アートストリート 新開地アートブックプロジェクト 〜まちの地質調査〜」
■ワークショップ1月〜3月初旬 ドキュメント展 3/22(土)〜30(日)
■メインナビゲータ 井上明彦(美術家)、ナビゲーター山下里加(美術ライター)他多数

●<KAVC ART LINKシリーズ vol.5>
Nature Art Camp 2002 ドキュメント展
日時:2月2日(日)〜2月9日(日)(14日休館日) 10:00〜19:00(最終日〜17:00)
場所:KAVCギャラリー
関連企画:2月2日(日)14:00〜 座談会(リハーサル室2)
出展者:PHスタジオ、藤浩志、WS参加者
お問い合せ先:078-512-5500(KAVC)【共催】

●【東京の夜を騒がせているあのゴージャラスついに関西上陸!】
大阪/graf『松蔭浩之展』関連ライブ「ゴージャラス LIVE IN KOBE」
スペシャルゲスト/シモーヌ深雪(シャンソン歌手-ドラァグクイーン)さらにゲストが!?
会期:2/23(日) 18:30open 19:00start
料金:前2000円/当2300円
1月中旬よりKAVC、graf、チケットぴあで前売り発売予定

上記ともに
会場:神戸アートビレッジセンター 神戸市兵庫区新開地5-3-14 tel.078-512-5353
休館日:火曜日
URL:
http://kavc.or.jp
お問い合せ先:k-chieko@kavc.or.jp

[きのした ちえこ]

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