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芸術の森美術館 森の美術散歩II〜芸術の森美術館コレクションから |
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そうしたなか、昨年、舟越桂の《雪の上の影》という作品がコレクションに加わった。母娘のふたつの顔をもつ彼の最新作である。この作品を寄贈していただいたのが、札幌市在住の90歳を越える女性であった。本人の希望により、名前や詳しい事情を明かすことはできないが、北海道開拓のなかで苦労しながら自分を育ててくれた母親への思いを形として残したいという申し出によるものであった。歳をとるごとに、母親の自分に深い愛情を身にしみて感じ、母親を顕彰するものを残したいというのである。当初、彼女から大通公園に親仔馬の像を設置するためのお金を寄付したいという話が札幌市にあったときには、はっきりいって困惑した。しかし、よく話をうかがってみると、親仔馬像というのはヨーロッパの公園にある騎馬像のイメージに加え、たまたまテレビで競走馬の記念像設置を見て思いついたことで、また野外設置でなくとも、多くの人に見てもらえればということであったため、美術館への作品寄贈ということで話がまとまった。美術館として候補作家の作品を見てもらい、そのなかで彼女が気に入ったのが舟越桂であった。早速、作家に連絡し事情を話したところ、彼はこれまで内容まで指定された依頼を受けたことがないという。少し考えさせてほしいとのことであったが、幸いにも、親子の情愛を表現するというこの依頼を引き受けてくれた。依頼者とその母の写真も送り、想を練ってもらった。そうしてできあがったのが、寄り添った母と娘が遠くを見つめる半身像である。美術館でこの作品と初めて対面した依頼者は、「こんなに立派なものを…」と繰り返しながら、母の思い出を目に涙を浮かべながら語り続けたことがとても印象的であった。 《雪の上の影》は、間違いなく多くの人々に愛され続ける、当館を代表する作品となることであろう。個人の思い出を芸術家の力で普遍的な作品として、多くの人々に感動を与え続けていく。これを契機にこうした寄贈が増えてくれればいいのだが…。海外では美術館への寄付は税金免除などの特典があると聞くが、日本でもそうした法的整備が進むことを望みたい。 この作品は、現在芸術の森美術館で開催中の「森の美術散歩II 」(3月30日まで)のほか、今年全国巡回する舟越桂展の東京・栃木・旭川会場にも出品予定である。
[よしざき もとあき] |
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