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サウンド・トラック

Soundtrack
更新日
2024年03月11日

広義には映画作品を構成する一要素としての音楽や音響を、狭義には台詞、効果音、音楽からなるフィルムの音声部分を指す。映画の音声はフィルムの録音帯に光学や磁気で録音トラックとして記録されることから、映画音楽も含めた、映画の音声全般がサウンド・トラックと言われている。無声映画の時代を経て、1923年のサウンド・カメラの発明に伴い、映像と音楽が同期した。アニメーションにおいては、30年代にO・フィッシンガーとR・プフェニンガーが音楽の視覚化というかたちで映像と音楽の同期に成功した。ある映画のために作曲されたオリジナルの音楽は確かに存在するが、サウンド・トラック、つまり映画音楽独自の様式や構造はなく、つねに映像との関係性のなかでその性格が決定される。映像と音との関係を大まかに二分すると、その場面でその音源が見える音をイン(in)、あるいは同時の音、その音源が画面では見えない音をオフ(off)の音あるいはフレーム外の音、となる。役者の話す様子が見えると同時に彼の声も聞こえる場合は前者に、役者の姿は見えないが、彼の声だけが聞こえる場合は後者に属する。音による演出はその映画のプロットと一体化し、時に音楽は画面のなかで起きていることを雄弁に語る。だが、L・ブニュエルやA・ロブ=グリエのようにプロットそのものの構造が破綻している作品では、フレームの内と外、時空間の斉一性が稀薄であるがゆえに、音楽もプロットや劇的演出から解放されて、より抽象的となる。映画におけるリアリズム追求の有効な手段として劇的に用いられるのか、それとも、リアリズムとの乖離を目指して実験的な手法に走るのか。サウンド・トラックは映画のなかの時空間を操り、その映画に応じたさまざまなあり方を呈する。

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補足情報

参考文献

『映画の教科書 どのように映画を読むか』,ジェイムズ・モナコ(岩本憲児ほか訳),フィルムアート社,1983
『映画にとって音楽とはなにか』,ミシェル・シオン(川竹英克、J・ピノン訳),勁草書房,1993
『映画の音楽』,ミシェル・シオン(小沼純一ほか訳),みすず書房,2002
Audio Visual: Sound on Screen,Michel Chion,Columbia University Press,1994