現代美術用語辞典 1.0

スナップショット・エステティック

Snapshot Aesthetic
2009年01月15日掲載

芸術作品として位置付けられるスナップ写真の総称。W・ベンヤミンが『複製技術時代の芸術作品』で述べるように、写真という表現媒体の本質は、その複製可能性と同時に技巧の不在にある。すなわち、写真とはカメラの性能に依存すれば、訓練によって技巧を習得することがなくても誰しも撮影可能な媒体であり、翻って写真を芸術として定位しようとする一連の試みは、モティーフの選択や厳密な構図の確定など、写真の撮影にそうした技巧的な要素を取り入れることに専心してきた。A・アダムス、A・スティーグリッツ、E・ヴェストンら「ストレート・フォトグラフィ」の写真作品にはそうした痕跡が窺えるだろう。そうした中で、誰しも容易に撮影可能なスナップ写真は、最も芸術から遠い写真表現と見なされていたが、逆に、常に人物や風景を構図の中心に据えるその撮影方法は、周辺に予測不可能な夾雑物が混入し、思いも寄らなかった表現効果をもたらすことがある。この点に初めて注目した写真家がR・フランクであり、L・フリードランダーやG・ウィノグランドらが追究したスナップ写真の可能性は、写真表現に新しい地平をもたらしたのだった。「エステティック」という言葉は、技巧の不在を逆手にとった彼らの戦略を含意している。

[執筆者:暮沢剛巳]

現代美術用語辞典 2.0

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