現代美術用語辞典 1.0
タイラー・グラフィックス
Tyler Graphics Ltd.
2009年01月15日掲載
アメリカ現代版画を代表する版画工房のひとつ。1960年代のプリント・リバイバルの時代に、ロサンゼルスでジェミナイG.E.L.を率いていたマスタープリンター、ケネス・タイラーが、1964年に自ら育て上げたジェミナイを辞し、翌年ニューヨーク北部のベッドフォードに移って設立した。タイラーの版画制作に対するアプローチは、ジェミナイ時代から既成の技法素材にこだわらず工業的な素材や新しい技法を大胆に導入していくというものだったが、タイラー・グラフィックスにおいてもその姿勢は遺憾なく発揮された。中でも製紙に関する数々の技術革新は有名で、1986年にニューヨーク州マウント・キスコに移転してからは工房内に本格的な製紙設備を併設し、同工房で制作する版画のほとんどに自家製の手漉き紙を使用するなど、同工房の大きな特徴となっている。こうした作品の代表としては、D・ホックニーの《ペーパー・プール》シリーズ(1978-80)や、J・ローゼンクイストの《水の惑星にようこそ》シリーズ(1989)などが挙げられる。また、タイラーにとっては60年代からの盟友であるF・ステラとのコラボレーションも特筆すべきで、サイズ、色彩、プロセスのすべての点で、従来の版画の概念を打ち破るような作品を数多く発表している。1982年にウォーカー・アート・センター(ミネアポリス)、1995年にCCGA現代グラフィックアートセンター(福島県)に、アーカイヴ・コレクションが設立されている。
[執筆者:木戸英行]